夜に抱かれて 第3話

第3話 子恋い、母恋い

トニー・ベネットの歌声に合わせてペアダンスを踊る司と苑子。
「流星さんも踊りましょうよ。ああでも、リードは司のほうが得意だわ」
男同士で踊るなんて勘弁、と笑ってかわそうとする司に対し、流星は眼鏡を外して司に歩み寄ります。
「いいよ、踊ろう」
真剣な面持ちで向かい合い、指を絡め踊りだす司と流星。
息がぴったりです。
席に着いた苑子は微笑ましい親友同士の交流だと思って和んでいますが、渦中の二人は密な攻防を繰り広げていました。
「さっきの取り消せよ。冗談なんだろ?」
ショックを受けていたのに、次のアクションで相手に告白の取り消しを迫る。この切り替えの速さが流星の流星たる所以ですが、29年経っても斬新すぎて驚きます。
司は取り合いません。
「覚えているか? 谷川岳での雪山登山のこと」
学生時代冬に二人で登山した際、遭難してしまい、力尽きた流星は意識を失います。
流星を救うため、司は雪を口に含んで溶かした水を流星に口移しで飲ませます。
テントの中、司の腕の中で目覚める流星。
「俺、ファーストキスだったんだぜ」
気持ち悪いと笑う流星に、司はぽつりと零します。
「俺は、気持ち悪くなかったな」
「…ごめん。お前の腕、あったけぇな……」
ふたりは指を絡め合い、熱く視線を交わします。
唇がふれあいそうになる寸前、流星は居心地悪そうに顔を反らします。
このやり取りがすごく示唆的で。
熱っぽい司の告白が続きます。
「あのとき俺の腕のなかにいたのは、男でも女でもないひとつの切実な命だった。女の尻を追いかけてた自分に一体何が起こったのかと思ったよ。あのとき俺は、一生分の恋をしてしまったんだ。あのとき、お前の中にも何かが芽生えたはずだ」
思いの丈を打ち明けて、司は流星を背中から抱きしめようとします。
「違う!」
動揺しながらも、司の腕も想いも拒絶する流星。

苑子と流星は司のマンションに身を寄せることにします。
他のホストたちが雑魚寝している部屋の奥にある司のベッドルーム。
一組の布団を苑子に譲り、流星は中央の大きなベッドに司とふたりで寝ることになります。
司は習慣で全部脱いで寝る上、洗濯が面倒臭いという理由でパンツをゴミ箱にシュートイン。
さすがに隣で身を固くする流星。
「何もしないよ」
耳元でそう囁いた矢先、司は流星にキスします。
驚いて目を丸くする流星をよそに、司は布団を被って寝たふり。
「何してるの?」
「こいつをからかって遊んでるんですよ」
寝る体制に入った苑子の質問に、司が答えます。
「もう、寝なさい!」
司の行動が完全なる悪ガキになってます。
流星の背を押して自宅に帰ってきた時から、心底受かれて嬉しそうでしたね……
流星と偶然再会したあと、誰もいない店でひとり物憂げに沈んでいたあの大人の男はどこにいったんだと思うものの、好きな子と一緒に寝るんだもんね。わかるよ……
翌日、流星は司のTシャツを借りて自宅アパートを見に行きますが、部屋の前に柿崎の手のものが見張っていて中に入ることができません。
かわりに、あるものを抱いて司のマンションに戻ります。
司は出勤前の準備をしていました。居候のホストたちに的確に指示を出し、効率的に進めていく様子に、流星は圧倒されます。
司、第2話で流星のことで思い悩みNo.2である賢三に「あいつももう落ち目だな」と言われていたのと本当に同一人物なのかというくらい、バリバリのデキる男になってます。
そりゃそうです。自分が貸したぶかぶかのシャツを細身の身体にもて余した流星が側にいるんだもん。
いいところ見せたくて張り切るの、わかるよ…
司が提案した、追及の手がやむまでの居候を、流星は受け入れます。
「居候の身で、こんなこと頼むのもあれなんだけど……」
流星は猫を飼っていいかと訊きます。アパートの前で再会したのです。
快く承諾する司。
「それと、笑わないで欲しいんだけど……」
流星は少しためらいながらも、はっきりと言います。
「ホストになりたいんだ」
こうして、神谷流星の第二の人生が始まりました。
司から借りた衣装に身を包み、清掃からのスタートです。
司を目の上のたんこぶ扱いしている賢三は、舎弟を使い流星に陰湿な虐めを仕掛けます。
新入りホストに便座を素手で洗わせるの、飲食店の店員として自分だって危なくなるのに、コイツ色んな意味で最悪……と視聴者に思わせる見事なヒールっぷり。
流星も目に怒りが灯りますが、もめ事は起こさず粛々と従います。
清掃が終わりヘルプに入る際、労うマサに流星が愚痴ります。
「あんなやつのどこがいいんだ。司と比べたら月とスッポンじゃないか。あんなのがいたら、店の品が落ちると思うけどね」
流星のNo.2への辛辣極まりない評。虐めが腹に据えかねたのもあるんでしょうが、流星の価値観がどこまでも司基準なのがよく分かります。
流星って、外交官だろうとホストだろうと司が絶対で最高の男なことに疑念の欠片も入る余地がないんです。そりゃ司もこんなひとが隣にいたら張り切るよ。
トイレでのホストとしての先輩から後輩への指導……に見せかけた司の流星への微笑ましいスキンシップの場面を挟みつつ、物語は進んでいきます。
次は苑子さんのドラマをまとめつつ第4話になります。

夜に抱かれて第2話

第1話において、流星は高校時代の同級生から電話を受けます。
今は地元の山梨でワインを作っている昔馴染みからの電話に、思わずお国言葉が出る流星。
高校を卒業して8年になって、そろそろ同窓会を開きたいから、麻桐司に繋いでくれと言われ、流星は連絡先を知らないと返します。
電話口で相手は驚きます。あんなに仲が良かったのにと。
「住む世界が違っちゃったからね……」
そう流星は寂しく笑います。
流星の地元での記憶は、母親に捨てられて以降ずっと司が隣にいます。
親戚の家に預けられ、ぶどう園でバイトをしていた流星を、オーナーの息子である司は手伝っていました。
とても仲良くじゃれあう学生時代の二人の回想にかぶさる流星のモノローグ
「僕は彼を愛し、そして…ほんの少し憎んでいた」

同じころ、司はホストとしてホテルから朝帰りした足で苑子を訪ねていました。
「飯食わせてくんない?」
そう気軽に上がり込む司と苑子の間には、勘ぐられるような関係はありません。
夜の街で男を売る司と、女を売る苑子は、いわく「戦友」、同志なのです。
「司には心に決めたひとがいるのよ」
「そんなのいないよ」
そう笑ってかわそうとする司は、しかし学生時代を思い出していました。
ひと房の葡萄を唇が触れそうなほどに顔を近づけながら一緒に食べた相手、神谷流星を。

6年ぶりにホテルで再開したあと、司は鏡の中に流星の姿を見て懊悩します。
「流星……なんでまた、俺の前に現れた!」

第2話 禁色の告白
クラブに保証金として金を納めたことで苑子との契約が成立したと流星は思っていました。
しかし連絡はなく、クラブにだけキャンセルの知らせが入ったと聞かされます。
信頼の証として銀行口座に大金を送ったのに、これでは意味がないではないか。
貸付限度額を超過し、サラ金のブラックリストに載っていて保証金もトイチで借りた流星にはあとが後がないのです。
「その80万は、次の客に当てればいいでしょ」
出張ホストクラブのオーナーである柿崎はそう流星をいなして、次の仕事を提示します。
相手は苑子を詐欺に誘った畝子であり、当然契約破談こそが彼女の仕事です。
しかし畝子は流星を気に入って個人的に愛人契約を結んでもいいとある提案をします。が、迷った末、流星は断ります。
シャワールームで流星は鏡に映った自分に、苛立ちをぶつけます。
畝子の提案とは急所の剃毛でした。

柿崎と連絡が途切れたことで、騙されたことに気付いた流星は、建設現場で働く苑子と偶然の再会を果たします。流星は、もはや退職金を当てにするしかないと告白します。
お互いの苦しい境遇と胸の内を語り合い、二人の間には同志めいた共感が生まれます。
苑子はお詫びに流星の借金を肩代わりすると申し出ますが、流星はきっぱり断ります。
苦しい境遇でなんとか生き抜いてるのはお互い様なのです。
区役所職員を辞めた流星は、渡された名刺を頼りに苑子のクラブを訪ねます。
たまたま苑子は席を外しており、流星は畝子と居合わせます。
畝子と苑子がグルだったと知って、ショックを受けたのをなんとか隠した流星は、機会を逃さず畝子に詰め寄ります。
「クラブの住所を教えてくれ」
「私が教えるわけないでしょ」
流星は食い下がります。
「このままじゃ、男が廃る! 高校時代の親友の言葉だ。それを思い出した。このままで引き下がれるか。もう失うものはないんだ」
隙をついて畝子の手帳を奪った流星は、そのほんのひと時の間に記号化されたスケジュールを読み取り、柿崎の連絡先を突き止めます。
そこに司が来てしまいます。流星は驚きを露わにします。
司は畝子と流星が顔見知りなことを知り不思議そうにしています。司にとって流星はお堅い公務員のままなのです。
「何があったんだよ?」
流星にとっても司は外交官のままです。
「喋っていい?」
畝子が囁くのに、流星は強がります。
「喋りたきゃ、どうぞ」
「あのね、私たちね……」
「やめろ!」
この一連のやりとりがすごくいい。生の人間のリアルな感情の揺れ動きが鮮明に映し出されています。
東山紀之の演じる役が、こんなに目の前の人間の存在そのものに振り回されて、余裕がなかったことなんてないです。
司の前では毅然とした男でいたい。醜聞は知られたくない。二律背反で揺れ動いている流星は、非常に色っぽいです。
「危ないわよ! ドラム缶に詰められて、海に流されちゃうんだからね!!」
柿崎の裏を知っている畝子の必死の制止も流星を留めることはできません。司の存在を振り切るように、流星は店を飛び出します。
クラブに留まった畝子は司に事情を話します。
「大丈夫よ。柿崎が住所を割るわけないんだから」
「いや、あいつは頭がいいんだ。何か考えがあるはずだ」
司が言う通り、策を講じた流星はクラブの住所を突き止めて単身乗り込んでいました。
この思い切りの良さと行動力! 吹っ切れてしまった流星のキレ方があまりに鮮やかで、惚れ惚れします。
流星救出のため、クラブへと車を飛ばして向かう司と苑子。
「あいつの命は俺が救う。そういうめぐり合わせなんだ。『男がすたる』か、あいつそう言ったのか。あの弱虫流星が」
ハンドルを握る司の顔には、抑えきれない高揚の笑みが浮かんでいます。
この表情を流星が見られたらなー
金を取り返すべくクラブに乗り込んだ流星ですが、男たちに拘束され吊るされ、手ひどい暴行を受けていました。
「はじめて見たときから、食べてみたいと思ってたのよ」
部下を下がらせた柿崎は流星のシャツを破き、愛おしそうに素肌に頬ずりします。
流星が抵抗すると、束ねたロープを鞭のように使い、打ちすえます。
到着した司と苑子が流星が拘束された部屋の前までたどり着き、司の焦った声とドアを叩く音が響きます。
「流星!!」
「司っ…! 来るなぁ……」
「こんな恥ずかしい姿、見られたくないわよねぇ」
書くのがやや憚られますが、柿崎は流星のスラックスのベルトを外しジッパーを下したうえ、急所を火で焙っていました。
只ならぬ気配と悲鳴に司は一刻を争う事態と悟り、柿崎の部下から鍵を奪おうと乱闘を繰り広げます。
途中、苑子が人質に取られるというアクシデントがあったものの、「ヤッパが怖くて銀座で店張ってられるか!」と啖呵を切る苑子は自分に刃物を突き付けた相手を肘打ちして応戦します。
ナイフを取り出した柿崎の冷酷さを肌身では感じた流星は、一つの提案をします。
「俺を自由にしていい。その代わり、外の二人には手を出すな!」
流星が、本当に痺れるほどに格好いい…。
にやりと笑い、流星に近づいていく柿崎。
柿崎がナイフの柄で流星の肌をなぞり始めた隙をついて、流星は腹筋を使い、右左連続で膝蹴りを入れて伸してしまいます。
両腕吊るされた状態で拷問を受け、精神肉体的に消耗したあとですよ。
痺れるけど、一介の元区役所職員のバイタリティではないです。演者が東山紀之または由美かおるの場合しか許されない作劇です。
鍵を奪うことに成功した司が部屋に飛び込んできます。
凌辱された流星の姿に、呆然とする司。
思わず目を逸らす流星。
床に伸びている柿崎を虫けらを見る目で見降ろした司は、思い切り蹴りを入れます。
司のジャケットを借りた流星は苑子に身体を支えてもらい車に乗り込み、追っ手をなんとか振り切ります。
三人は柿崎の手を逃れるため、住所が割れていない司の店に一時避難します。
苑子に傷の手当をしてもらい、やっと現在の司がここジュリアンで指名No.1のホストだと流星は知ります。
「どうして、外交官やめたんだ」
「惚れた女がいたんだ」
「誰なんだ」
「婚約も破棄した。外国では、外交官は夫婦同伴じゃなきゃ仕事にならない」
「告白したのか?」
「とても打ち明けられる相手じゃない」
「人妻か?」
「それなら、暴力ででも奪い取ってるよ」
乾いたように嗤う司。
「相手は、女じゃない男だ」
司は手を伸ばし、流星のグラスに口をつけます。
「流星、お前だ」
思いがけない愛の告白を受けて動けない流星をよそに、髪を直してきた苑子に誘われて司はホールでダンスを踊ります。
三人の夜が更けていきます。

ドラマ『夜に抱かれて』制作の背景と第1話

夜に抱かれて

作     井沢満
音楽    服部隆之

出演
中里苑子  岩下志麻
麻桐司   高嶋政宏
村上剣   山口達也
川瀬芙美  白川和子
団時朗   柿崎昇
武田恵子  川瀬奈生
武発史郎
マサ    坂本昌行
斎藤勝
鷹弘人
中尾彬
土橋竜五郎 石田太郎
君塚畝子  渡辺えり子
神谷流星  東山紀之

第1話:ホスト志願
第2話:禁色の告白
第3話:子恋い、母恋い

――僕は身体を売ろうと、売春をしようと本気で考えていた――
東山紀之演じる神谷流星のショッキングなモノローグから始まる『夜に抱かれて』は、1994年10月から12月、日本テレビ系列水曜夜22時枠で放映された全10話の連続ドラマです。
当時小学4年生の私はこのドラマの第7話を偶然リアルタイムで観てしまい眠れなくなって翌日保健室にいたわけですが、それはともかく。
当時放映されていた夜21時台22時台の民放ドラマの中でも、『夜に抱かれて』は異色の作品でした。
刑事ドラマでも時代劇でも単発二時間ドラマないのに、こんなにベテラン勢がレギュラーを固めるアダルトなドラマって稀です。
東山紀之は当時28歳ですがあくまで特別出演。
主演は岩下志麻。誰もが知る銀幕の大スター。NHKの大河ドラマかという重厚さです。
じゃあなんでそんなドラマができたの? というあたりを周辺情報から探っていきたいと思います。
当時、岩下志麻と東山紀之の共演映画企画がありました。原作は伊集院静『白秋』(1992年上梓)。東山は1991年の単独初主演映画『本気!』から2005年『MAKOTO』との間に14年ものブランクができていますが、本来そんなに空く予定ではなかったのです。
90年元旦放映TBS大型時代劇『源義経』で初顔合わせを済ませていた岩下と東山の本格競演の前哨戦として、ドラマ『夜に抱かれて』が決まったのだと推測されます。
なお中里苑子を演じる岩下と麻桐司を演じる高嶋政宏との初共演は1991年公開の映画『新極道の妻たち(しんごくどうのおんなたち)』(この映画を見ると流星と司の解像度が上がるかもしれないのでお薦め)、高嶋と東山の役者としての初共演は1993年10月9日放映日本テレビ系列ドラマ『外科医有森冴子さよならSP』(脚本:井沢満)です。

地上波本放送一度きり配信なしVHSオンリーの『夜に抱かれて』ですが、日本での本放送の二年後、1996年8月に台湾の衛視中文台の23時台にて放映されています。
タイトルは『星期五牛郎』。直訳すると「金曜日のホスト」となり台湾でも『金曜日の妻たちへ』がヒットしたことを思わせる見事な便乗タイトルになっています。あんまりだと思われたのか原題のニュアンスが残る『拥抱黑夜』のタイトルでも通じます。日本と同じく視聴困難なようで中華圏最大Q&Aプラットフォームである百度知道でも「見たい」という声がちらほら挙がっていたりします。

『夜に抱かれて』本編に話を戻します。
ショッキングなモノローグの通り、1話から3話の展開を流星視点でまとめると「区役所出張所に勤める地方公務員だった俺が身体を売って、命を狙われ、見習いホストになるまで」になります。
堅実な職業についていながらなんでそんなことにというと、子どもの頃に自分を捨てた母親の男が作った借金返済のため。
26歳の身空にはあまりにも重い境遇です。
借金の取り立てをやっていたはずの村上剣が、同じ母親に棄てられたという境遇にシンパシーを感じて広告で見た出張ホストの募集をいい儲け話だと誘いに来るんです。
ご飯の残りをねだりにくる野良猫の催促にさえ耳をふさいでしまいたくなるような切羽詰まった状況で、流星はこの話に乗ってしまいます。
まあ、当然のごとく詐欺なんですけど。
時を同じくして新宿のクラブの雇われママをしていたものの資金繰りに喘ぎ昔の顔なじみに手酷い扱いを受け、と心労が重なって副業である建設現場の現場で立ち眩みを起こしたところで、出張ホストを騙す犯罪の片棒を担ぐ決意をします。
こうして『夜に抱かれて』の事実上のW主役である流星と苑子が出張ホストとその客としてホテルの一室で出会うことになります。
が、その直前。
出張ホストとしての初仕事の前に下着を新調しようとホテルの売店に寄った流星が、司と苑子のペアと鉢合わせます。
学生時代の大親友であった流星と司ですが、ここ数年会っていませんでした。
だから流星は司を東大卒のエリート外交官として華々しい道を歩んでいる、自分と違う世界の住人だと思ってに扱うし、司もそれを否定しません。
実際の司は新宿のホストクラブ『ジュリアン』で指名No.1を誇るホストです。ホテルにいたのも、客の相手をするためでした。
流星だって「俺、これから売春するんだ」とは言えないので、お互いに隠し事をしたまま、なんとか社交辞令で取り繕ってやり過ごそうとします。
このお互いの微妙でぎこちない距離を測りながらのやり取りがすごくいいんですよね。妙な臨場感があって、いたたまれない。
その後に指定された部屋に流星が出勤すると、客として苑子が出迎えます。
お互いに司の友人知人として紹介された人間が出会うシチュエーションとして、これも気まずさMAXです。夜の街を生き抜いてきた苑子だってうろたえます。動揺がよくわかる演技に注目。
「司とは、もう会わないと思います」
という流星の言葉で踏ん切りをつけて、苑子は流星と予定通り寝ることにします。
なお流星は売春によりヴァージンを喪う覚悟できてます。重い……
「キスして」
苑子の誘惑に応じる形で二人は唇を重ねます。二人とも横顔が美しい……

3話まとめて書く予定だったのですが、1話が思った以上に長くなった。2話に続きます。

第1回 夜に抱かれて同時上映会とスペース

2月4日(土)
20:00~22:15 『夜に抱かれて』第1~3話再生(145分)
22:30~23:30 スペース

スペースのアーカイブはこちら

タニス・リーが永眠しました。

去る2015年5月24日、作家タニス・リー氏が永眠されました。

氏は私に海外ファンタジーの素晴らしさ、海外SFの豊かさを教えてくれた作家です。
初めて読んだ著書は『闇の公子』でした。浅羽莢子氏の翻訳の素晴らしさも手伝い、そこに描かれた美麗で俗世の価値観とは違う理で構築された世界観にただただ圧倒されました。
続刊『死の王』はその長さに何度か挫折したものの、こんな作品がこの世にあることに感謝したくなる見事なまでの残酷な美に彩られており、とても大切な一冊になりました。
もしかしたら、私は氏の著書によって文章に鮮やかな色彩が宿るのだと初めて知ったのかもしれません。

SF作品『銀色の恋人』『銀色の愛ふたたび』も忘れがたい作品です。『銀色の恋人』の主人公は恵まれた少女です。素敵な家があり素敵な母親もいます。でも、物語が進むうちに、その母親が自分をコントロールしやすい「いい子」として手の内に収めていたのでは、と気付き始めます。
これは少女の自立の物語でした。

そして氏の悲報が伝えられた時、私はファンタジーでありSFでもある『パラディスの秘録』シリーズ最終巻、『狂える者の書』を興奮しながら読んでいる途中でした。

氏の著書は100作を超えるそうですが、邦訳された本で現在入手可能なのは40冊に満たないようです。
今、私は環早苗氏翻訳のSF作『バイティング・ザ・サン BITING THE SUN』を読み始め、その世界の奔放さに強く惹かれています。

タニス・リーさま、ありがとうございます。
これから一冊一冊、大切に読ませていただきます。

草々

レイジング・ファイアによせて~ドニー・イェン演じる刑事の遍歴~

ドニーさん演じる刑事が堅気に見える、と言ったらドニーさんビギナーの友人に「普段のドニーさんってどんななの?」
と訊かれたのでこう答えました。
「暴力半裸刑事……」

2005年劇場公開『SPL 狼よ静かに死ね』におけるドニー・イェン演じる馬軍刑事は、外からやってくる。サイモン・ヤム演じるチャン率いる犯罪捜査班には邪険にされ、仲間としての親密さは最後までない。彼は異質なのだ。
それを表すようにマー刑事は立ち上げた髪に胸元の大きく開いたシャツ、日に焼けた肌にはシルバーネックレスが輝き、ハイブランドの革ジャケットとボトムズにホワイトのベルトを合わせるという、ヤクザの幹部でももうちょっ大控え目なのではと思うようなド派手なファッションで登場する。
後半、強敵とのバトルを重ねてマー刑事のジャケットはアウトしシャツは破れボタンは飛び、かろうじてボタン一つで肌に繋ぎ留められているという状態になる。

絞り込まれたマー刑事の見事な肉体から繰り出される速く鋭いアクションは錯綜する男たちの重すぎるドラマを牽引し、映画は大傑作です。
『SPL 狼よ静かに死ね』は現在諸事情により国内の配信サイトにタイトルがないので、未見の方は是非DVDレンタルを。

SPLはノワールなので男たちの選択は取り返しのつかないものだ。マー刑事も、実は公僕としての一線を越えた重い過去を背負っている。


当初SPLの続編としてアナウンスされた『導火線』にしても、ドニーさん演じるマー刑事は恋人の有無を訊かれても答えられない。同居していた母親は疲れて出て行ってしまう。
ウィルソン・イップは本来『オーバー・サマー 爆裂刑事』『ジュリエット・イン・ラブ』のように孤独な者たちが肩を寄せ合う人間ドラマを得意とする映画監督だが、ドニー・イェン主演の現代劇で彼が演じる役のリラックスした姿が描かれることはない。
仕事一筋の彼の佇まいが、ひとときの安らぎさえ拒絶している。

『導火線』で監査が入るほどの暴走をするマー刑事は最終的に相棒ウィルソンとその恋人を助けるために単身敵のアジトに乗り込み、コリン・チョウ演じるトニーと熾烈なラストバトルを繰り広げる。

壮絶な死闘の最中、トニーは強敵と闘える悦びに笑っている。本質的にはマー刑事の魂の色はトニーに近いのだ。だからこそ、すべてが終わった後も彼を此岸に留めておくためにウィルソン・イップ監督は彼の隣に相棒をおいたのだ。

類い稀な強さが周囲から人を遠ざけ、自身を追い詰めている。その危うさと一途さが孤高の美しさに結び付いているのが2000年代以降のアクションスタードニー・イェンだった。

一方最新作『レイジング・ファイア』におけるドニーさん演じるボンはというと、仲間が仕事への姿勢や覚悟で煽り合いを始めると、「家に帰ろう」と宥める。
長年追ってきた敵を捕らえる大捕物が失敗に終わると、仲間に「転職しようかな」と愚痴をこぼす。
そうしてぼろぼろの身体を引き摺って帰った家で、傷だらけの身体を鏡に晒し、項垂れた背中で家族に甘える。
ボンは現代に生きる生身の、血の通った我々と同じ人間だ。
本来のボンは犯人逮捕第一で和を乱すのを厭わない特攻型タイプだ。優秀な捜査官だが接待ができないし受けることもできないので、出世と縁がない。

敵を作りやすいボンの代わりに緩衝材となってくれていた兄貴分を見送ってから、ボンは明らかに成長している。
仲間の内輪揉めを宥めるのもそうだし、中間管理職の悲哀を引き受ける同期ポウへの接し方も変わった。
「俺の立場はどうなる」と訴える同期に、ボンは高い位置にある相手の頬を両手でぺちっと挟んでこう返す。
「お前なら乗り越えられる、大丈夫だ」

ボンは不安を見せる仲間にも心配する家族にも「大丈夫」と請け負う。
根拠はないが、彼が言うと説得力がある。皆が安心する。
事実彼はそのようにして苦難を乗り越えてきたし、これからもそうやって生きていくのだろう。
ぐっすり眠って起きたら、何か妙案が浮かんでいるかもしれない。
もしどうしても駄目なら、転職すればいいのだ。
それで世界が終わるわけではない。明日が明日の風が吹く。

ドニーさんをお姫様と形容したのは早川みどり先生だが、じいや他お付きの者を従えてあっちゃこっちに行っていたお転婆なお姫様が、ようやくついてきてくれた人への労い方と帰る場所を見つけたのだ。

※……『香港アクション風雲録 (キネ旬ムック) 』参照 https://www.amhttazon.co.jp/dp/4873765196/ref=cm_sw_r_tw_dp_YHKEYZ19ENDXS3T7WFDN

映画『レイジング・ファイア』公式サイトhttps://gaga.ne.jp/ragingfire/

フォーラム八戸館内のレイジング・ファイア展示。ありがとうございます。

少年隊の双璧の話。──ほっぽアドベント2020

クリスマスまで残すところ11日。透子さん映子さんどじょんさんにご紹介いただきました #ぽっぽアドベント カレンダー3つめ12/14の担当、初参加の松倉東です。去年のアドベンドがあまりに楽しかったので飛び込んでみました。よろしくお願いします。
テーマは「変わった/変わらなかったこと」。今年結成38年になるジャニーズ事務所現役所属最年長アイドルグループ、少年隊の双璧について。

2020年12月をもって錦織一清、植草克秀の二人がジャニーズ事務所を退所する。
9月20日の少年隊ファンクラブメール伝言板から跳んだページにそう書いてあった。
心配してくれたはとちゃんから「大丈夫ですか」ってDMが来た時、「三人にはもっと大きなものを貰ってるから大丈夫」と恰好をつけてリプしたものの、実は全然大丈夫じゃなかった。
その日は映画『窮鼠はチーズの夢をみる』を観に行く予定で電車の時間まで調べていましたが、結局行きませんでした。ちょうど夏から秋に変わる頃で、夕どき冷たくなった外気が自律神経が失調気味な身にはあまり良くないので、ということにしていたが、本当は退所ニュースによって、2017年11月15号『an・an』で東山紀之が「血の繋がりのない家族。もはや運命共同体ですね」と答えたグループである少年隊が、来年以降ジャニーズの看板を背負って表舞台に立つことはなくなるんだという事実が衝撃で。一緒に現場に行く友人がいれば通話もしたろうが、あいにく該当者の都合が悪かったので、ひとり唸ってました。

どうしてそんな強がりを言ったのかというと、私が東山紀之のFanだからとしかいいようがない。粋で鯔背なジャニーズのMr.Cool。見栄を張ってカッコつけるのが習い性なのだ。

2008年以降三人そろったグループ活動が一切ないまま2020年も半ばを過ぎていたので、ついに来る時がきたかと思わなくもなかったんですが、それでもショックはショック。さらに別の大事が重なったFanはもっと衝撃だったろうなと思います。

というわけで、四半世紀来の東山担当から見た少年隊の話。

錦織一清。愛称ニッキ(メンバーはニシキと呼ぶ)。本来俗世にいる必要がないのに、何故か気に入り居着いている天下の佳人。下町育ちの庶民派を気取っている変わり者。
植草克秀。愛称カッちゃん。テディベアのように愛らしいルックスの理想的アイドル。東山がボールのように丸いというその人柄は、女性から貰った手編みのセーターを大切にしていたのが気に入らなかった東山に該当の品を捨てられたのに怒るだけで済ませるという寛大なエピソードに象徴される。私なら一発殴る。
東山紀之。カッコ悪いことが大嫌いで、トンキーという愛称を番組プロデューサーに提案され「絶対にイヤです」と抵抗するところからアイドル人生がスタート。
少年隊メンバーについて

少年隊は1983年明治チョコレート「Dela」のCMキャラクターになったときに情熱のレッド=錦織(ただし30代以降脱力系中年にジョブチェンジ)、ムードメーカーのイエロー=植草、そしてブラック=東山のイメージカラーが決定し37年後の今もそのままなわけですが……
ブラックとは黒。色、ないです。黒子くろこという言葉でわかるように、本来表に出る色ではありません。
少年隊は大人で正統派なアイドルグループで今はK-POPに代表される東アジア発ボーイバンドの完成形ですが、東山紀之という偶像はアンチノミーなんです。

東山紀之、愛称ヒガシは細い顎と通った鼻筋と、切れ長一重の眼差しが印象的な美形。佇まいは古風でスタイルは現代的。小顔で四肢はすらりと長く178cmと長身なので、ファッション誌の仕事が途切れることがありません。
地上波テレビではここ25年ほどジャニーズ事務所の顔役なので、立派な成人然として振る舞っています、が。
実は無邪気な子どもです。
少年隊メンバー中一番の年下なので、悪ガキなんですよね。愛されて許されるのを知ってるので、始末に負えない。
ヒガシは毎日1時間風呂に入る大のキレイ好きです。だからといって、「先にシャワーを浴びたい」といっても植草さんが朝のシャワーの順番を譲ってくれないのに本気で腹を立てて、シャワー室のドアの四方をガムテープでびっちり塞いで相当頑張らないと開けられないようにしてたエピソードとかみると、末っ子として普段どんだけ甘やかされてたんだよと思いますね。
この、大人びて見える子どもというのが東山紀之のアイドル性です。

少年隊は曲によってフォーメーションが変わるグループです。初期の基本形は芸能活動のキャリアが近藤真彦より長いリーダー錦織一清がセンター。レコードデビュー後になると、生放送定番のマイク集音事故の心配をする必要のない莫大な声量と歌唱力を持つ植草克秀がセンターで安定するようになります。両脇のシンメは錦織と東山。

アイドルヒガシは、人と争うことをしません。特に錦織一清とは絶対に争わないのです(逆に、唯一の例外が植草さんです。彼とは争います。争って争って延々言い返すので、普段の30倍くらい口数が増えます)。
ヒガシにとってニシキとは伝説のひとなので、一緒に活動するようになって以降、雛みたいにあとをついて回った形跡がそこかしこに残ってます。
なお錦織さんは東山の一歳年上ですが、東山は友人にはこういう行動はとりません。シブがき隊のヤックンこと薬丸裕英は錦織さんと同い年で東山の気の合う親友ですが、薬丸の婚前旅行が発覚し謹慎処分を食らってたときに東山は焼肉弁当をもって励ましに行ってます。25年後には、当時は忙しくて挙げられなかった結婚式もプレゼントしてます。中学時代バスケットボール部のキャプテンを務めてたように、本来は即決速攻でガンガン行ってまわりが自然についていくタイプです。
錦織さんは早熟で精神年齢が高く個を大切にするひとなので、少年隊というグループでやっていくにあたり、そんなヒガシにひとつのプレゼントをします。
ヒガシは、「伝説のひと」であるニシキと個性のまるで違う対等なライバルだ、という尊重です。

少年隊はレコードレビュー翌年の1986年から23年間ほど東京青山劇場でプレゾンというオリジナルミュージカルを続けていて、そこで錦織と東山は対照的で好敵手な役どころを何度も当てられています。
89年作『Again』では裕福な家庭に生まれたリュウ(錦織)と、不良たちをまとめあげる苦労人ジョー(東山)。そんな二人の前にGODの手違いで天国に召し上げられた上、同じく都合により女の子に転生したケン(植草)が送られるわけです。
設定だけ聞くと、ならこの後はリュウとジョーがケンを巡って火花を散らすんだな、と思うじゃないですか。
実際それっぽい場面も用意されてはいますが、ほんと言い訳程度。ケンを巡ってチーム・リュウとチーム・ジョーがバッチバチの群舞バトルを繰り広げる場面、実際はジャニーズトップダンサー錦織一清の巧みで安定感のあるリードによって、末っ子ヒガシがのびのびとくるくる舞っています。息がぴったりきれいにシンクロしすぎて、熱と熱のぶつかり合いにつきものであるはずの摩擦や抵抗といった要素が欠片もありません。
じゃあケンは、水と油であるリュウとジョーの仲を取り持ったりするのかな、と思うじゃないですか。
実際は、仲間を庇いひとりで泥を被ろうとしたジョーの手を、リュウが紳士的に引いて逃避行します。
凪いだように穏やか。平和そのもので起伏がありません。前年『カプリッチョ』では天使(東山)と悪魔(錦織)の間に探偵の卵(植草)をおいて山あり谷ありの展開がうまく転がったのに。

『Again』にはジョーがリュウに「お前みたいにぬくぬくと育ってきた奴にはわからない、大事なことを知っているぜ」と啖呵を切る場面があります。プレゾンを振り返るときは必ずここを切り取られるというくらい印象的ですが、本編で明かされなかったそのこと、とは
「大好きな家族と精一杯遊べる今は、とても幸せ」
なんじゃないのかな。
アイドルヒガシにとって、ダンスや歌や芝居ってやりがいのある遊びなんです。

プレゾン初年度『Mystery』から踊るときはヒガシが旦那役であっても妻役のニシキにほのぼのリードされ続けていたわけですが、『Again』から10年経った1999年『Goodbye&Hello』とその翌年『THEMEPARK』でやっと関係性に変化が見られます。とくに『THEMEPARK』でぺアでタンゴを踊ったとき、錦織と東山、どっちがリードしているのかいくら見てもわからないくらいにはピンと張りつめた緊張感がありパワーバランスが拮抗してるんですね。
ジャニーズトップダンサーで教科書であるニシキと自分が肩を並べる双璧である自覚が、末っ子ヒガシにやっと芽生え始めた……んだと思うんですが、東山さんて自覚が薄いほんっとうの天然なので、Fanとしても全然確信が持てない。2008年音楽劇『さらば、わが愛 覇王別姫』のときも、単独座長公演なのにさっさと何でもやってしまう末っ子しぐさで演じてしまい「ヒガシ、お前は情緒がないんだよ」と故・蜷川幸雄に注意されてたので。みんな、あなたが見たくてあなただから期待して待ってるんですよ。

ともかく。口数は少なく物静かなのにしっかりと個がありはっきりものを言う東山紀之というアイドルに黒――じっとしていると周りに溶け込んでいるのに動き出すとはっきり見え、どんな色にも染まらないカラーは、まさにイメージぴったりだなとしみじみ思います。
2020年を境に35年間ずっと一緒だった少年隊の形が変わりますが、よく見てみてると実は変わってないのでした。

ぽっぽアドベンド、次はオザキさん、みのもさん、ばっこ baccoさんです。

そしてアドベントを企画し運営してくれているはとちゃんに感謝を述べて締めといたします。

『バンジージャンプする』 レビュー

story
国文学科のソ・インウ(イ・ビョンホン)は雨の日に出逢った白いシャツの女性が忘れられない。仲間には「一目惚れなんて」と笑われるが、出会ったバス停に彼女が現れるのを待ち続ける。 そんなある日、大学構内で白いシャツの女性を見つける。彼女、イン・ヒス(イ・ウンジュ)は同じ大学の彫刻科の学生だったのだ。インウのひたむきなアプローチにより二人は愛し合うようになる。しかしインウが兵役へ出発する日、ヒスは見送りに現れなかった。 そして17年の時が流れ、インウは国語の高校教師になっていた──。

噂はかねがね聞いていたんです。聞いていたんですが、実物は想像のはるか上でした。設定と演出、出演陣の熱演があいまって大怪作になってます。本気で感動しました。 テーマは「性別なんて関係ない、お前だから好きなんだ」というJUNEの王道です。大好き。 前半はインウが凄まじくイケてない文学青年で楽しい。 服装も髪型も行動も喋り方も走り方もすべてがダサい。清潔感のあるダサさ。 それはそのまま彼の性格にも繋がっていて、この男、仲間うちでは見栄でちょっと斜に構えて見せても、実に不器用で純情。 こと恋愛に関しては、不慣れなために殆ど挙動不審(例:ヒスを見るために彫刻科の講義に出席し続け、必須単位を落とした)。 けれどその一途さが結果的に一目惚れの相手であるヒスの心を動かすことになるんだからいいのか。 それにしてもインウ、孟アタックをし掛けているはずがヒスと一対一になると常に受け身です。

時の流れを、ヒスのために吸い始めた煙草の扱いで表現する演出がいいですね。 しかも同時に、ヒスと付き合うことでファッションその他が洗練されていったってことも表している。 兵役に行く直前のインウはセンスが良くなってる。相変わらずキスは受け身ですが。
後半はインウが自分を見失っていくにつれて画面のこちら側も迷子になっていきました。先生マジでしっかりしてください。それじゃストーカーです。 三分に一回深呼吸しながら観たので、ある意味『悪魔を見た』より疲れた……。
インウが「チュヨン(娘)は俺が産んだ子だな」と言い始めたところが個人的ハイライトでした。

SFでもファンタジーでもないのに妙に説得力があるのは、とんでもない設定&展開の合間合間に地に足ついた描写が挟まれているから。 観客に気になるポイントを用意しているのもそう。 例えば、インウが受け持ち生徒ヒョンビンの携帯電話にきたメールを削除しちゃった上に、その送り主に全力で嫌がらせをする流れ。 インウもまだ自分が何をしているか分かってないから、一切説明なしで進行している。「一体何があるんだ?」と観客は前のめりになります。 その後もインウはヒョンビンに関しては、本当に人としてどうかと思うことをしでかしていくんですが、芯の部分はブレてないのがいいですね。だから応援したくなる。 盗みの疑いをかけられた生徒への対応とか、その後の生徒の行動とか。本来は生意気な高校生が一目置くくらい優秀な教師である、という部分が最後まで描かれている。人柄は真面目で、誠実で、嘘はつけない。
そんな昔のままのインウ先生にも、ちゃんと昔と違うところがあるんだよというエクスキューズが印象的です。 特に揺らぐ自分の男性性を妻で確認しようとするズルさは学生時代にはなかったもので、ああ17年の歳月はこの人にも等しく降ったんだなと。

・個人的ツボ
二人三脚でヒョンビンの肩に手を置くのをためらうインウ。インウには緊張するとしゃっくりが出るくせがあるんですが、ヒョンビンの前では必死に隠そうとしてるのがまたね。 ヒョンビンに「どうせなら恋愛でもしますか? 先生」とふざけたように言われて、インウがヒョンビンの胸ぐらを掴んだもののポロポロ泣き出してしまう場面。背の高い教え子の肩に顔を埋めて泣いちゃう先生の図にきゅんとしました。

被虐のイケメン/イ・ビョンホンの地獄の映画道|カサンドラ獄中記 加藤ヨシキさんの映画俳優イ・ビョンホン紹介記事

KinKi Kidsという純正アイドルの起源

一度でもあのふたりに心を揺り動かされた人たちに向けて。

『硝子の少年』が本当は何を歌っているのかを、少年隊を全く知らないKinKiファンに向けて解説します。

1997年7月21日リリースKinKi Kidsデビューシングル『硝子の少年』は山下達郎プロデュース、作詞は松本隆。
まず、曲の舞台は日本ではありません。
私が36年間生きてきた日本社会においてバス停留所を「バス・ストップ」とは呼ばないので。
ではどこかというと、歌詞にあるように映画館のあるどこかの町です。

――逆さまに映る、歪んだ球の向こうの側――

少年隊ミュージカル「PLAYZONE’95 KING & JOKER―映画界の夢と情熱―」*(以下「K&J」と表記)の舞台は、シネマの楽園です。
錦織一清演じる映画スター•チャンプと、彼に見出され相手役を務める青年•早乙女(東山紀之)。そして、そんなふたりの出演作の脚本を、チャンプと作品の方向性で頻繁にぶつかりながらも書き直し続けている結城(植草克秀)が主な登場人物です。
早乙女が次世代のスターに選ばれたことで、チャンプは自らの映画人生の幕引きを考え始めます。チャンプの最大の理解者である女性もその意を汲んで協力します。
目的は、スターとしての資質が充分にある早乙女に、自覚を促し自我を持たせること。
早乙女にはハングリー精神というか闘争心が欠けているのです。

孤独なチャンプが唯一安らげる場所である実姉は、人生のパートナーを得て旅立つ準備をしています。チャンプはそんな姉の門出をきちんと祝っていて、本心は結城にだけ見せています。チャンプは結城に、自分のすべてを記した本の執筆を依頼しているので。

早乙女には初の主演映画の話が舞い込みます。そして、チャンプのそばにずっといた女性リサと交際をスタートさせます。
早乙女の映画映画の撮影は順調に進みます。そんな撮影現場を舌鋒鋭く批判するチャンプに、さすがの早乙女にも敵対心めいたものが芽生えたのか、挑戦状を叩きつけます。

早乙女の主演映画の興行は順調で、次回作もクランクイン。そんな中、早乙女はリサに「あなたのことが好き。けれど私はあなたのような映画スターになりたいから、プロデューサーと結婚するわ」と告げられます。

二年後、現在。
結城と早乙女は、チャンプの死について語り合います。
野心ある若者なら「帝王の座が空いた。チャンスだ」と少しは邪心が生まれるのかもしれませんが、早乙女は頭を抱えるばかりです。「俺のせいで死んだんじゃないか。彼をあそこまで追い込めたのは俺じゃないか」とまで言っています。
実際に映し出されたフィルムでは、チャンプは撮影中に自らビルの屋上から飛び降りたのに。
そして早乙女は、自分の意志で結城が書いたチャンプの伝記の映画化を企画し自ら主演、見事に完成させます。
終幕。

『硝子の少年』に話を戻します。
歌詞の中で、バス・ストップにいたのはチャンプの姉。
小さな石で未来ごと売り渡したのは、チャンプの最大の理解者で早乙女の意中のひとであるリサ。
歌割を考慮すると、アイドル堂本剛が「K&J」におけるチャンプの姉の、光一が早乙女の想いびとリサの子ども(子どもとは依り代であることの喩え。「K&J」に子どもは登場しない)ということになるはずです。

※…少年隊ミュージカル「PLAYZONE’95 KING & JOKER―映画界の夢と情熱―」

(脚本・演出: 錦織一清/原案: 少年隊)

CM

少年隊ミュージカルPLAYZONE(プレゾン)は1986年から2008年に毎年東京青山劇場で上演していた少年隊主演ミュージカル。23年間のうち2004年公演を除く22作までがオリジナル作品で、今年2020年12月12日にベストアルバムとともに完全受注生産のDVD-BOXが発売されます。クオリティを考えるとびっくりするほどお得なので是非!

Johnny’s Entertainment Record 公式サイト SPOT MOVIEのページから宝箱みたいなムービーが閲覧できます。

DVD「少年隊 35th Anniversary PLAYZONE BOX 1986-2008」完全受注生産限定盤 通販ページ 申込み受付は10月9日23時59分まで。

ブギウギ・キャット Spring Tour ’90 ver.

アイドル東山紀之は自分をよく馬や犬に喩えます。
動物占いが流行った頃にはペガサスって自分にぴったりと言い切り同席の植草さんを呆れさせていました。

1990年少年隊春コンサートの『ブギウギ・キャット』は錦織一清がステージでワンコーラスを歌ってからバックバンドと女性コーラスメンバー、CDデビューを間近に控えた忍者を紹介します。次に植草克秀を呼ぶと、応援団のように長い鉢巻をたなびかせたカッちゃんが走って登場。
そして「最後にとびきりイカしたやつを紹介します、メインボーカル東山紀之!」という掛け声で、後方階段上のステージに現れた少年隊の末っ子が肩に抱えた大砲をドカンとぶっ放します。
クールな佇まいのあのヒガシが、当時23歳とはいえ悪ガキ全開の笑顔です。
リーダー錦織はアイドルを完璧に演じる少年隊の総合演出家。ロック歌手としてステージ中央でギターとのセッションもセクシーに魅せて、東山との掛け合いのパートに入るとヒガシのラップに答えず「みんなありがとうー!」とアドリブのファンサービスをします。
その合図により、後ろを向いて前髪を掻き上げたりと錦織を立てていた東山は思いきり、ひとりぽーんと高台に昇りガンガンパフォーマンスを始めます。
錦織も「あっちを見てね」とでも言うように東山のステージを指差します。ラストのバク転バク宙の連続技も少年隊では東山ひとりが担当。
錦織は東山が全力でパフォーマンスするためにマイクスタンドを寄せなきゃいけないし、植草は植草で頭につけた長い鉢巻をきれいに見せながらアクロバットするのは無理があるので(そんな芸当、東山だってそうそうできないと思いますし)。

猫をかぶるという言い回しがありますが、東山は少年隊メンバーでいるときは犬から猫へ変身するのです。
その証拠に手元にある1991年2月10日にプレスされたCD版ミニアルバム「WONDERLAND」に収録されている『ブギヴギ・キャット』の最後でシャム猫みたいに にゃお と可愛らしく鳴いてる声はどう聞いても対外的にはMr.パーフェクトとして王子様的アイドルを忠実に演じている東山紀之そのひとのものなのですから。

’90SPRING TOUR/少年隊