月: 2023年2月

夜に抱かれて 第5話

第5話 ゲームの報酬

司のマンションにやってきた土橋建設社長の元愛人チホは、タイミング悪く忘れ物を取りにきていた苑子と鉢合わせることになり、司と流星の策略が発覚してしまいます。
怒って帰るチホ。
「怒ってる? 俺たちのこと」
苑子に内緒でゲームを仕掛けていたことを恐る恐る訊く司。苑子は、怒っているのは自分にだと返します。
ゲームオーバーだと言う司に対し、流星はチホが忘れて行った手帳を手に、諦めないと宣言します。
「苑子さん、傷ついちゃいませんか? このまま引き下がっちゃ、苑子さんの値打ちが下がります!」
止めようとする苑子を制する司。
「金と女の絡んだ修羅場はホストにはつきものだ」
締めるところは締めて、手を離すところは離して流星の自主性に任せる。司は実に理想的なコーチです。
流星は手帳にある連絡先を虱潰しにあたり、閉店前の『キス100万回』にいたチホを捉まえます。
驚いてドアを閉めようとするチホを逃がすまいと、流星は重たそうなドアの隙間に片足を突っ込み、当然挟まれて悶絶します。
痛む脚を抱える流星の姿に毒気を抜かれたチホは、流星を店に招き入れます。
中で流星はチホを口説きます。くだらない常識に囚われていた自分を変えたい。だから自分の一生を三千万で買わないか。
契約書を書き血判を押す流星にチホも本気を察します。
そこに現れた、手にあざのある男。チホにそそのかされて三千万を盗んだのに裏切られたのを恨んで追ってきたのです。
三千万円とチホを守るため、男と乱闘を繰り広げる流星。
男が流星の顔を潰そうと割れたガラス瓶で流星に襲い掛かるに至り、耐えられなくなったチホは流星の制止を聞かずに金の隠し場所を吐きます。

流星の電話を受ける司。
なんと、流星は三千万を獲得していたのです。
苑子のアパートで、3千万を取り返したいきさつを話す流星。
実はチホが手にあざのある男に渡したのは、偽の鍵だったのです。
本物の鍵を、プレゼントだと流星に渡すチホ。
チホは流星の心意気に打たれたのだと言います。
それではけじめがつかない流星は、ひとつの提案をします。
「3千万のお礼に、キス100万回ってのはどう?」
チホは答えます。
「100万回にも負けない、新宿一、東京一の熱ーいキスをちょうだい?」

「お前、かっこうよすぎねぇか? 気障っていうか」
一連のやり取りを聞いた司が、ややあきれたようにコメントします。
「こんな時、司だったらどうするかって考えて、真似しただけだよ」
さらりと答える流星に、やや瞠目して絶句する司。流星の素晴らしいお手本は隣にいたのです。
この後、苑子が土橋のところに行き、たぬき爺の頬を札束で叩いて啖呵を切り、花咲かじいさんよろしく道中3千万をばら撒くというカタルシスたっぷりのシーンを挟み、再び苑子のアパート。
3千万を有意義に使ってすっきりした苑子は、お礼として司と流星に銀杏をふるまうのでした。

数日後。
流星は、司にマンションを出ると告げます。
驚く司に、更に続ける流星。
「お前が俺に、友情以上のなにかを抱いているっていうのな。あれ、応えることはできない。俺が応えることは絶対にない」
きっぱりとした拒絶に、思わず席を立つ司。その背中を、流星の悲痛な声が追いかけます。
「友情だけを大切にしたいんだよ!」

夜の街をひとり、あてどなくさまよう白いコートを纏った司。
その姿は、亡霊のようです。

夜に抱かれて 第4話

『夜に抱かれて』というドラマはドロドロになりそうな昼ドラ的題材を、朝ドラの上品さでまとめています。
これは重厚な音楽の効果も多分にあるわけですが、主に主人公である中里苑子の性質によるものです。
苑子は、京都の祇園の芸子であった母親に育てられ水商売を生業としてきました。
若い時に、子どもをひとり設けています。
子どもの父親である村上直樹は既婚者であり、一緒にはなれませんでした。
苑子の母親は生まれてすぐの子どもをどこかに預けてしまい、そして消息を苑子に教えることなく他界しました。
バブルがはじけ、銀座で店を構えていた苑子は資金繰りに喘ぎ、マンションを手放します。現在はクラブ『くれない』の雇われママ。
第1話では、かつて店の金を持ち逃げした客が金を持ってきたのに気をよくしてホテルで一夜を過ごしたのに、ふたを開けてみればジュラルミンケースの札束は間に白紙を挟んだダミーで、しかも相手は自分で同衾を求めたくせに下衆な捨て台詞を吐いてくるのです。
「十代の処女なら三千万出すけどね」
苑子も言われっぱなしではなく、ベッドに寝ている男の上にボトルの赤ワインをどぼどぼと注いで立ち去るのですが、自宅に向かうタクシーの中で涙が朝日を反射していました。
その後出張ホストに応募してきた男たちを騙す詐欺に加担するのですが、相手の村上剣が息子と同い年だとわかった動揺し、「財布からいくらでも取っていていいから帰って」と追い出してしまいます。カモにお金を渡したんです。
その後も自分が騙した流星の借金を肩代わりしようと、性格がほとんど武士です。
第5話にて「やせ我慢がこのひとの信条になっているのだろう」という流星のモノローグがありますが、まさにそういうひとなのです。
いつか会いたい、それが夢だと語っていた生き別れた息子が実は村上の家に預けられていると知り、頭を下げて訪ねて行ったら交通事故で死んだと告げられた時も、酒を飲んでひとしきり泣いたら、気丈に立ち直ります。
場所が司の店だったので司と流星が給仕として付き合うのですが、この苑子を中心とした紳士同盟がすごく雰囲気が良くて。三人でいるときは皆楽しそうで幸せそう。

第4話: 罠(トリック)

苑子の抱える借金の中で、どうにもならないのが三千万円。それを無担保で貸すと申してできた土橋建設の社長と苑子が銀行に行った日、部屋で筋トレをしながら流星と司は話題にします。
「司が貸せばいいじゃないか」
「そんなキャッシュねぇよ。派手に見えても案外手元に残らないのがこの仕事なのよ。そりゃ、副業で手堅くやってるやつはいるよ? けど俺は性にあわねぇ。ホストならホストらしく目いっぱい見栄張って生きろってんだ。それに、あの人断るよ。金が友情の値段になるって言って」
「友情ね。男と女の間に友情なんてあるのかな?」
「俺と苑子さんは、いわば戦友だな」
「戦友ね。俺はあの人のことそんな風に思えないな」
「惚れたのか?」
ここでは司の追及を流す流星。
司は流星を恋愛感情込みで愛しているので、無意識に流星の身体のラインを目で追ってしまう自分に気付いて、苦し気に目を逸らします。
銀行では、苑子と土橋の取引は順調に進んでいました。しかし、店員を装った手の甲に傷がある男に三千万を丸ごと持ち逃げされる事案が発生してしまいます。
「どうすんだよ」
司のマンションに戻り己のミスだとひとしきり事情を愚痴る苑子。
「それが…お金ことはいいから、世話にならないかっていうの」
「愛人になれってことですか? やめてください!」
語気を強くする流星。
「土橋…どっかできいたことあるんだよな」
ひっかかって首を傾げる司。
苑子がアパートに戻ることになり、クラブ『くれない』にも戻れる算段がついたと本人は言っています。が、当然司と流星は収まりません。
「土橋……土橋……思い出した!」
二人が勤めるホストクラブ『ジュリアン』の近くのホストバー『キス100万回』の常連に、土橋建設社長の愛人がいたのです。
持ち逃げは土橋の関係者が関わっていると確信した二人は、その夜『キス100万回』に偵察に行きます。

司の家では流星は司の服を借りてるので、終始ぶかぶかの服の中で細い身体が泳いでいる上、燃え袖になってます。白のクルーネックの袖をまくってるのも、手が隠れちゃうからでしょうね。眼福。
閑話休題。

「そういや、仕事には慣れたか?」
カウンターで偵察中、近況について語る二人。
No.1についているから大丈夫、店以外でも貰っているから借金を返し始めたんだと語る流星。
「そういや、そもそもお前はなんでホストに?」
訊くと、司は言いよどみます。
「それはな……」
そのとき、愛人が来店します。
聞き耳をたてる二人。チホという女が三千万が手に入ったと語り持ち逃げに関わったのは確定です。
話題から彼女の趣味が競馬だと知った司は、流星に競馬雑誌購入の使い走りを頼みます。
チホがトイレで席を外している間に即席で競馬の知識を叩き込む二人。
ここで司と流星が一つの雑誌を除き込む接近パートが入ります。
チホが戻ってきたタイミングで、司と流星は競馬の雑談を始めます。
計算通り乗ってくるチホ。
そのま三人でいい具合に盛り上がりますが、暗記物が苦手な司は出ていないオグリキャップのダービーの話をしてしまいます。
「オグリはダービーに出てないわよ」
チホに冷たい目で突っ込まれます。
「夢です、夢。こいつ、好きすぎるあまりオグリがダービーに出る夢を見たんだよ」
流星のフォローにより事なきをえます。この辺、司と流星のコンビは実に息があっており、高校時代もこうだったんだろうなと思わせます。
司がスツールの後ろに隠した競馬雑誌がずり落ちそうになったのも、気付いた流星がフォローしていました。
ところで、チホの好みは一度あっただけでしっかり名前を覚えてくれていた司ではなく、スラっとしなやかな流星です。
「あんた、オグリみたいね」
オグリキャップの子どもの馬主になれるかも…という話を餌に、次は『ジュリアン』に来店するようにといってチホと別れます。
翌日、司のマンション。苑子が出て行ってからすっかり水準の落ちた食事を居候ホストたちとすすりながら、司と流星は徹夜の朝を噛み締めていました。
「一夜漬けをなんて学生時代以来だよ。青は…3枠の色」
「4枠だろ。俺は一夜漬けじゃなかったけど」
「お前すごいな」
司に褒められてもクールにスルーする流星。本当にいいコンビ。
司はチホに見せる用のオグリキャップとの合成写真まで、客に頼んで準備しています。
「散々文句言われたよ。『この私にこんなことさせるなんて』って」
「一発キメれば、大人しくなるんだろう?」
さらっと返す流星に、やや瞠目する司。
「お前も言うようになったな。けど気をつけろよ、客はお前のいいところに惚れてるんだから。水に馴染みすぎると、意気地が汚れるぜ」
夜。計算通りチホはジュリアンに来店。畝子も協力した策に見事にハマり、次は三千万円を持ってくると言質をとります。
が、チホははやる気持ちを抑えきれず、どこかから聞きつけて司のマンションに直接来てしまったのでした。

夜に抱かれて 第3話

第3話 子恋い、母恋い

トニー・ベネットの歌声に合わせてペアダンスを踊る司と苑子。
「流星さんも踊りましょうよ。ああでも、リードは司のほうが得意だわ」
男同士で踊るなんて勘弁、と笑ってかわそうとする司に対し、流星は眼鏡を外して司に歩み寄ります。
「いいよ、踊ろう」
真剣な面持ちで向かい合い、指を絡め踊りだす司と流星。
息がぴったりです。
席に着いた苑子は微笑ましい親友同士の交流だと思って和んでいますが、渦中の二人は密な攻防を繰り広げていました。
「さっきの取り消せよ。冗談なんだろ?」
ショックを受けていたのに、次のアクションで相手に告白の取り消しを迫る。この切り替えの速さが流星の流星たる所以ですが、29年経っても斬新すぎて驚きます。
司は取り合いません。
「覚えているか? 谷川岳での雪山登山のこと」
学生時代冬に二人で登山した際、遭難してしまい、力尽きた流星は意識を失います。
流星を救うため、司は雪を口に含んで溶かした水を流星に口移しで飲ませます。
テントの中、司の腕の中で目覚める流星。
「俺、ファーストキスだったんだぜ」
気持ち悪いと笑う流星に、司はぽつりと零します。
「俺は、気持ち悪くなかったな」
「…ごめん。お前の腕、あったけぇな……」
ふたりは指を絡め合い、熱く視線を交わします。
唇がふれあいそうになる寸前、流星は居心地悪そうに顔を反らします。
このやり取りがすごく示唆的で。
熱っぽい司の告白が続きます。
「あのとき俺の腕のなかにいたのは、男でも女でもないひとつの切実な命だった。女の尻を追いかけてた自分に一体何が起こったのかと思ったよ。あのとき俺は、一生分の恋をしてしまったんだ。あのとき、お前の中にも何かが芽生えたはずだ」
思いの丈を打ち明けて、司は流星を背中から抱きしめようとします。
「違う!」
動揺しながらも、司の腕も想いも拒絶する流星。

苑子と流星は司のマンションに身を寄せることにします。
他のホストたちが雑魚寝している部屋の奥にある司のベッドルーム。
一組の布団を苑子に譲り、流星は中央の大きなベッドに司とふたりで寝ることになります。
司は習慣で全部脱いで寝る上、洗濯が面倒臭いという理由でパンツをゴミ箱にシュートイン。
さすがに隣で身を固くする流星。
「何もしないよ」
耳元でそう囁いた矢先、司は流星にキスします。
驚いて目を丸くする流星をよそに、司は布団を被って寝たふり。
「何してるの?」
「こいつをからかって遊んでるんですよ」
寝る体制に入った苑子の質問に、司が答えます。
「もう、寝なさい!」
司の行動が完全なる悪ガキになってます。
流星の背を押して自宅に帰ってきた時から、心底受かれて嬉しそうでしたね……
流星と偶然再会したあと、誰もいない店でひとり物憂げに沈んでいたあの大人の男はどこにいったんだと思うものの、好きな子と一緒に寝るんだもんね。わかるよ……
翌日、流星は司のTシャツを借りて自宅アパートを見に行きますが、部屋の前に柿崎の手のものが見張っていて中に入ることができません。
かわりに、あるものを抱いて司のマンションに戻ります。
司は出勤前の準備をしていました。居候のホストたちに的確に指示を出し、効率的に進めていく様子に、流星は圧倒されます。
司、第2話で流星のことで思い悩みNo.2である賢三に「あいつももう落ち目だな」と言われていたのと本当に同一人物なのかというくらい、バリバリのデキる男になってます。
そりゃそうです。自分が貸したぶかぶかのシャツを細身の身体にもて余した流星が側にいるんだもん。
いいところ見せたくて張り切るの、わかるよ…
司が提案した、追及の手がやむまでの居候を、流星は受け入れます。
「居候の身で、こんなこと頼むのもあれなんだけど……」
流星は猫を飼っていいかと訊きます。アパートの前で再会したのです。
快く承諾する司。
「それと、笑わないで欲しいんだけど……」
流星は少しためらいながらも、はっきりと言います。
「ホストになりたいんだ」
こうして、神谷流星の第二の人生が始まりました。
司から借りた衣装に身を包み、清掃からのスタートです。
司を目の上のたんこぶ扱いしている賢三は、舎弟を使い流星に陰湿な虐めを仕掛けます。
新入りホストに便座を素手で洗わせるの、飲食店の店員として自分だって危なくなるのに、コイツ色んな意味で最悪……と視聴者に思わせる見事なヒールっぷり。
流星も目に怒りが灯りますが、もめ事は起こさず粛々と従います。
清掃が終わりヘルプに入る際、労うマサに流星が愚痴ります。
「あんなやつのどこがいいんだ。司と比べたら月とスッポンじゃないか。あんなのがいたら、店の品が落ちると思うけどね」
流星のNo.2への辛辣極まりない評。虐めが腹に据えかねたのもあるんでしょうが、流星の価値観がどこまでも司基準なのがよく分かります。
流星って、外交官だろうとホストだろうと司が絶対で最高の男なことに疑念の欠片も入る余地がないんです。そりゃ司もこんなひとが隣にいたら張り切るよ。
トイレでのホストとしての先輩から後輩への指導……に見せかけた司の流星への微笑ましいスキンシップの場面を挟みつつ、物語は進んでいきます。
次は苑子さんのドラマをまとめつつ第4話になります。

夜に抱かれて第2話

第1話において、流星は高校時代の同級生から電話を受けます。
今は地元の山梨でワインを作っている昔馴染みからの電話に、思わずお国言葉が出る流星。
高校を卒業して8年になって、そろそろ同窓会を開きたいから、麻桐司に繋いでくれと言われ、流星は連絡先を知らないと返します。
電話口で相手は驚きます。あんなに仲が良かったのにと。
「住む世界が違っちゃったからね……」
そう流星は寂しく笑います。
流星の地元での記憶は、母親に捨てられて以降ずっと司が隣にいます。
親戚の家に預けられ、ぶどう園でバイトをしていた流星を、オーナーの息子である司は手伝っていました。
とても仲良くじゃれあう学生時代の二人の回想にかぶさる流星のモノローグ
「僕は彼を愛し、そして…ほんの少し憎んでいた」

同じころ、司はホストとしてホテルから朝帰りした足で苑子を訪ねていました。
「飯食わせてくんない?」
そう気軽に上がり込む司と苑子の間には、勘ぐられるような関係はありません。
夜の街で男を売る司と、女を売る苑子は、いわく「戦友」、同志なのです。
「司には心に決めたひとがいるのよ」
「そんなのいないよ」
そう笑ってかわそうとする司は、しかし学生時代を思い出していました。
ひと房の葡萄を唇が触れそうなほどに顔を近づけながら一緒に食べた相手、神谷流星を。

6年ぶりにホテルで再開したあと、司は鏡の中に流星の姿を見て懊悩します。
「流星……なんでまた、俺の前に現れた!」

第2話 禁色の告白
クラブに保証金として金を納めたことで苑子との契約が成立したと流星は思っていました。
しかし連絡はなく、クラブにだけキャンセルの知らせが入ったと聞かされます。
信頼の証として銀行口座に大金を送ったのに、これでは意味がないではないか。
貸付限度額を超過し、サラ金のブラックリストに載っていて保証金もトイチで借りた流星にはあとが後がないのです。
「その80万は、次の客に当てればいいでしょ」
出張ホストクラブのオーナーである柿崎はそう流星をいなして、次の仕事を提示します。
相手は苑子を詐欺に誘った畝子であり、当然契約破談こそが彼女の仕事です。
しかし畝子は流星を気に入って個人的に愛人契約を結んでもいいとある提案をします。が、迷った末、流星は断ります。
シャワールームで流星は鏡に映った自分に、苛立ちをぶつけます。
畝子の提案とは急所の剃毛でした。

柿崎と連絡が途切れたことで、騙されたことに気付いた流星は、建設現場で働く苑子と偶然の再会を果たします。流星は、もはや退職金を当てにするしかないと告白します。
お互いの苦しい境遇と胸の内を語り合い、二人の間には同志めいた共感が生まれます。
苑子はお詫びに流星の借金を肩代わりすると申し出ますが、流星はきっぱり断ります。
苦しい境遇でなんとか生き抜いてるのはお互い様なのです。
区役所職員を辞めた流星は、渡された名刺を頼りに苑子のクラブを訪ねます。
たまたま苑子は席を外しており、流星は畝子と居合わせます。
畝子と苑子がグルだったと知って、ショックを受けたのをなんとか隠した流星は、機会を逃さず畝子に詰め寄ります。
「クラブの住所を教えてくれ」
「私が教えるわけないでしょ」
流星は食い下がります。
「このままじゃ、男が廃る! 高校時代の親友の言葉だ。それを思い出した。このままで引き下がれるか。もう失うものはないんだ」
隙をついて畝子の手帳を奪った流星は、そのほんのひと時の間に記号化されたスケジュールを読み取り、柿崎の連絡先を突き止めます。
そこに司が来てしまいます。流星は驚きを露わにします。
司は畝子と流星が顔見知りなことを知り不思議そうにしています。司にとって流星はお堅い公務員のままなのです。
「何があったんだよ?」
流星にとっても司は外交官のままです。
「喋っていい?」
畝子が囁くのに、流星は強がります。
「喋りたきゃ、どうぞ」
「あのね、私たちね……」
「やめろ!」
この一連のやりとりがすごくいい。生の人間のリアルな感情の揺れ動きが鮮明に映し出されています。
東山紀之の演じる役が、こんなに目の前の人間の存在そのものに振り回されて、余裕がなかったことなんてないです。
司の前では毅然とした男でいたい。醜聞は知られたくない。二律背反で揺れ動いている流星は、非常に色っぽいです。
「危ないわよ! ドラム缶に詰められて、海に流されちゃうんだからね!!」
柿崎の裏を知っている畝子の必死の制止も流星を留めることはできません。司の存在を振り切るように、流星は店を飛び出します。
クラブに留まった畝子は司に事情を話します。
「大丈夫よ。柿崎が住所を割るわけないんだから」
「いや、あいつは頭がいいんだ。何か考えがあるはずだ」
司が言う通り、策を講じた流星はクラブの住所を突き止めて単身乗り込んでいました。
この思い切りの良さと行動力! 吹っ切れてしまった流星のキレ方があまりに鮮やかで、惚れ惚れします。
流星救出のため、クラブへと車を飛ばして向かう司と苑子。
「あいつの命は俺が救う。そういうめぐり合わせなんだ。『男がすたる』か、あいつそう言ったのか。あの弱虫流星が」
ハンドルを握る司の顔には、抑えきれない高揚の笑みが浮かんでいます。
この表情を流星が見られたらなー
金を取り返すべくクラブに乗り込んだ流星ですが、男たちに拘束され吊るされ、手ひどい暴行を受けていました。
「はじめて見たときから、食べてみたいと思ってたのよ」
部下を下がらせた柿崎は流星のシャツを破き、愛おしそうに素肌に頬ずりします。
流星が抵抗すると、束ねたロープを鞭のように使い、打ちすえます。
到着した司と苑子が流星が拘束された部屋の前までたどり着き、司の焦った声とドアを叩く音が響きます。
「流星!!」
「司っ…! 来るなぁ……」
「こんな恥ずかしい姿、見られたくないわよねぇ」
書くのがやや憚られますが、柿崎は流星のスラックスのベルトを外しジッパーを下したうえ、急所を火で焙っていました。
只ならぬ気配と悲鳴に司は一刻を争う事態と悟り、柿崎の部下から鍵を奪おうと乱闘を繰り広げます。
途中、苑子が人質に取られるというアクシデントがあったものの、「ヤッパが怖くて銀座で店張ってられるか!」と啖呵を切る苑子は自分に刃物を突き付けた相手を肘打ちして応戦します。
ナイフを取り出した柿崎の冷酷さを肌身では感じた流星は、一つの提案をします。
「俺を自由にしていい。その代わり、外の二人には手を出すな!」
流星が、本当に痺れるほどに格好いい…。
にやりと笑い、流星に近づいていく柿崎。
柿崎がナイフの柄で流星の肌をなぞり始めた隙をついて、流星は腹筋を使い、右左連続で膝蹴りを入れて伸してしまいます。
両腕吊るされた状態で拷問を受け、精神肉体的に消耗したあとですよ。
痺れるけど、一介の元区役所職員のバイタリティではないです。演者が東山紀之または由美かおるの場合しか許されない作劇です。
鍵を奪うことに成功した司が部屋に飛び込んできます。
凌辱された流星の姿に、呆然とする司。
思わず目を逸らす流星。
床に伸びている柿崎を虫けらを見る目で見降ろした司は、思い切り蹴りを入れます。
司のジャケットを借りた流星は苑子に身体を支えてもらい車に乗り込み、追っ手をなんとか振り切ります。
三人は柿崎の手を逃れるため、住所が割れていない司の店に一時避難します。
苑子に傷の手当をしてもらい、やっと現在の司がここジュリアンで指名No.1のホストだと流星は知ります。
「どうして、外交官やめたんだ」
「惚れた女がいたんだ」
「誰なんだ」
「婚約も破棄した。外国では、外交官は夫婦同伴じゃなきゃ仕事にならない」
「告白したのか?」
「とても打ち明けられる相手じゃない」
「人妻か?」
「それなら、暴力ででも奪い取ってるよ」
乾いたように嗤う司。
「相手は、女じゃない男だ」
司は手を伸ばし、流星のグラスに口をつけます。
「流星、お前だ」
思いがけない愛の告白を受けて動けない流星をよそに、髪を直してきた苑子に誘われて司はホールでダンスを踊ります。
三人の夜が更けていきます。

ドラマ『夜に抱かれて』制作の背景と第1話

夜に抱かれて

作     井沢満
音楽    服部隆之

出演
中里苑子  岩下志麻
麻桐司   高嶋政宏
村上剣   山口達也
川瀬芙美  白川和子
団時朗   柿崎昇
武田恵子  川瀬奈生
武発史郎
マサ    坂本昌行
斎藤勝
鷹弘人
中尾彬
土橋竜五郎 石田太郎
君塚畝子  渡辺えり子
神谷流星  東山紀之

第1話:ホスト志願
第2話:禁色の告白
第3話:子恋い、母恋い

――僕は身体を売ろうと、売春をしようと本気で考えていた――
東山紀之演じる神谷流星のショッキングなモノローグから始まる『夜に抱かれて』は、1994年10月から12月、日本テレビ系列水曜夜22時枠で放映された全10話の連続ドラマです。
当時小学4年生の私はこのドラマの第7話を偶然リアルタイムで観てしまい眠れなくなって翌日保健室にいたわけですが、それはともかく。
当時放映されていた夜21時台22時台の民放ドラマの中でも、『夜に抱かれて』は異色の作品でした。
刑事ドラマでも時代劇でも単発二時間ドラマないのに、こんなにベテラン勢がレギュラーを固めるアダルトなドラマって稀です。
東山紀之は当時28歳ですがあくまで特別出演。
主演は岩下志麻。誰もが知る銀幕の大スター。NHKの大河ドラマかという重厚さです。
じゃあなんでそんなドラマができたの? というあたりを周辺情報から探っていきたいと思います。
当時、岩下志麻と東山紀之の共演映画企画がありました。原作は伊集院静『白秋』(1992年上梓)。東山は1991年の単独初主演映画『本気!』から2005年『MAKOTO』との間に14年ものブランクができていますが、本来そんなに空く予定ではなかったのです。
90年元旦放映TBS大型時代劇『源義経』で初顔合わせを済ませていた岩下と東山の本格競演の前哨戦として、ドラマ『夜に抱かれて』が決まったのだと推測されます。
なお中里苑子を演じる岩下と麻桐司を演じる高嶋政宏との初共演は1991年公開の映画『新極道の妻たち(しんごくどうのおんなたち)』(この映画を見ると流星と司の解像度が上がるかもしれないのでお薦め)、高嶋と東山の役者としての初共演は1993年10月9日放映日本テレビ系列ドラマ『外科医有森冴子さよならSP』(脚本:井沢満)です。

地上波本放送一度きり配信なしVHSオンリーの『夜に抱かれて』ですが、日本での本放送の二年後、1996年8月に台湾の衛視中文台の23時台にて放映されています。
タイトルは『星期五牛郎』。直訳すると「金曜日のホスト」となり台湾でも『金曜日の妻たちへ』がヒットしたことを思わせる見事な便乗タイトルになっています。あんまりだと思われたのか原題のニュアンスが残る『拥抱黑夜』のタイトルでも通じます。日本と同じく視聴困難なようで中華圏最大Q&Aプラットフォームである百度知道でも「見たい」という声がちらほら挙がっていたりします。

『夜に抱かれて』本編に話を戻します。
ショッキングなモノローグの通り、1話から3話の展開を流星視点でまとめると「区役所出張所に勤める地方公務員だった俺が身体を売って、命を狙われ、見習いホストになるまで」になります。
堅実な職業についていながらなんでそんなことにというと、子どもの頃に自分を捨てた母親の男が作った借金返済のため。
26歳の身空にはあまりにも重い境遇です。
借金の取り立てをやっていたはずの村上剣が、同じ母親に棄てられたという境遇にシンパシーを感じて広告で見た出張ホストの募集をいい儲け話だと誘いに来るんです。
ご飯の残りをねだりにくる野良猫の催促にさえ耳をふさいでしまいたくなるような切羽詰まった状況で、流星はこの話に乗ってしまいます。
まあ、当然のごとく詐欺なんですけど。
時を同じくして新宿のクラブの雇われママをしていたものの資金繰りに喘ぎ昔の顔なじみに手酷い扱いを受け、と心労が重なって副業である建設現場の現場で立ち眩みを起こしたところで、出張ホストを騙す犯罪の片棒を担ぐ決意をします。
こうして『夜に抱かれて』の事実上のW主役である流星と苑子が出張ホストとその客としてホテルの一室で出会うことになります。
が、その直前。
出張ホストとしての初仕事の前に下着を新調しようとホテルの売店に寄った流星が、司と苑子のペアと鉢合わせます。
学生時代の大親友であった流星と司ですが、ここ数年会っていませんでした。
だから流星は司を東大卒のエリート外交官として華々しい道を歩んでいる、自分と違う世界の住人だと思ってに扱うし、司もそれを否定しません。
実際の司は新宿のホストクラブ『ジュリアン』で指名No.1を誇るホストです。ホテルにいたのも、客の相手をするためでした。
流星だって「俺、これから売春するんだ」とは言えないので、お互いに隠し事をしたまま、なんとか社交辞令で取り繕ってやり過ごそうとします。
このお互いの微妙でぎこちない距離を測りながらのやり取りがすごくいいんですよね。妙な臨場感があって、いたたまれない。
その後に指定された部屋に流星が出勤すると、客として苑子が出迎えます。
お互いに司の友人知人として紹介された人間が出会うシチュエーションとして、これも気まずさMAXです。夜の街を生き抜いてきた苑子だってうろたえます。動揺がよくわかる演技に注目。
「司とは、もう会わないと思います」
という流星の言葉で踏ん切りをつけて、苑子は流星と予定通り寝ることにします。
なお流星は売春によりヴァージンを喪う覚悟できてます。重い……
「キスして」
苑子の誘惑に応じる形で二人は唇を重ねます。二人とも横顔が美しい……

3話まとめて書く予定だったのですが、1話が思った以上に長くなった。2話に続きます。

第1回 夜に抱かれて同時上映会とスペース

2月4日(土)
20:00~22:15 『夜に抱かれて』第1~3話再生(145分)
22:30~23:30 スペース

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