夜に抱かれて第2話

第1話において、流星は高校時代の同級生から電話を受けます。
今は地元の山梨でワインを作っている昔馴染みからの電話に、思わずお国言葉が出る流星。
高校を卒業して8年になって、そろそろ同窓会を開きたいから、麻桐司に繋いでくれと言われ、流星は連絡先を知らないと返します。
電話口で相手は驚きます。あんなに仲が良かったのにと。
「住む世界が違っちゃったからね……」
そう流星は寂しく笑います。
流星の地元での記憶は、母親に捨てられて以降ずっと司が隣にいます。
親戚の家に預けられ、ぶどう園でバイトをしていた流星を、オーナーの息子である司は手伝っていました。
とても仲良くじゃれあう学生時代の二人の回想にかぶさる流星のモノローグ
「僕は彼を愛し、そして…ほんの少し憎んでいた」

同じころ、司はホストとしてホテルから朝帰りした足で苑子を訪ねていました。
「飯食わせてくんない?」
そう気軽に上がり込む司と苑子の間には、勘ぐられるような関係はありません。
夜の街で男を売る司と、女を売る苑子は、いわく「戦友」、同志なのです。
「司には心に決めたひとがいるのよ」
「そんなのいないよ」
そう笑ってかわそうとする司は、しかし学生時代を思い出していました。
ひと房の葡萄を唇が触れそうなほどに顔を近づけながら一緒に食べた相手、神谷流星を。

6年ぶりにホテルで再開したあと、司は鏡の中に流星の姿を見て懊悩します。
「流星……なんでまた、俺の前に現れた!」

第2話 禁色の告白
クラブに保証金として金を納めたことで苑子との契約が成立したと流星は思っていました。
しかし連絡はなく、クラブにだけキャンセルの知らせが入ったと聞かされます。
信頼の証として銀行口座に大金を送ったのに、これでは意味がないではないか。
貸付限度額を超過し、サラ金のブラックリストに載っていて保証金もトイチで借りた流星にはあとが後がないのです。
「その80万は、次の客に当てればいいでしょ」
出張ホストクラブのオーナーである柿崎はそう流星をいなして、次の仕事を提示します。
相手は苑子を詐欺に誘った畝子であり、当然契約破談こそが彼女の仕事です。
しかし畝子は流星を気に入って個人的に愛人契約を結んでもいいとある提案をします。が、迷った末、流星は断ります。
シャワールームで流星は鏡に映った自分に、苛立ちをぶつけます。
畝子の提案とは急所の剃毛でした。

柿崎と連絡が途切れたことで、騙されたことに気付いた流星は、建設現場で働く苑子と偶然の再会を果たします。流星は、もはや退職金を当てにするしかないと告白します。
お互いの苦しい境遇と胸の内を語り合い、二人の間には同志めいた共感が生まれます。
苑子はお詫びに流星の借金を肩代わりすると申し出ますが、流星はきっぱり断ります。
苦しい境遇でなんとか生き抜いてるのはお互い様なのです。
区役所職員を辞めた流星は、渡された名刺を頼りに苑子のクラブを訪ねます。
たまたま苑子は席を外しており、流星は畝子と居合わせます。
畝子と苑子がグルだったと知って、ショックを受けたのをなんとか隠した流星は、機会を逃さず畝子に詰め寄ります。
「クラブの住所を教えてくれ」
「私が教えるわけないでしょ」
流星は食い下がります。
「このままじゃ、男が廃る! 高校時代の親友の言葉だ。それを思い出した。このままで引き下がれるか。もう失うものはないんだ」
隙をついて畝子の手帳を奪った流星は、そのほんのひと時の間に記号化されたスケジュールを読み取り、柿崎の連絡先を突き止めます。
そこに司が来てしまいます。流星は驚きを露わにします。
司は畝子と流星が顔見知りなことを知り不思議そうにしています。司にとって流星はお堅い公務員のままなのです。
「何があったんだよ?」
流星にとっても司は外交官のままです。
「喋っていい?」
畝子が囁くのに、流星は強がります。
「喋りたきゃ、どうぞ」
「あのね、私たちね……」
「やめろ!」
この一連のやりとりがすごくいい。生の人間のリアルな感情の揺れ動きが鮮明に映し出されています。
東山紀之の演じる役が、こんなに目の前の人間の存在そのものに振り回されて、余裕がなかったことなんてないです。
司の前では毅然とした男でいたい。醜聞は知られたくない。二律背反で揺れ動いている流星は、非常に色っぽいです。
「危ないわよ! ドラム缶に詰められて、海に流されちゃうんだからね!!」
柿崎の裏を知っている畝子の必死の制止も流星を留めることはできません。司の存在を振り切るように、流星は店を飛び出します。
クラブに留まった畝子は司に事情を話します。
「大丈夫よ。柿崎が住所を割るわけないんだから」
「いや、あいつは頭がいいんだ。何か考えがあるはずだ」
司が言う通り、策を講じた流星はクラブの住所を突き止めて単身乗り込んでいました。
この思い切りの良さと行動力! 吹っ切れてしまった流星のキレ方があまりに鮮やかで、惚れ惚れします。
流星救出のため、クラブへと車を飛ばして向かう司と苑子。
「あいつの命は俺が救う。そういうめぐり合わせなんだ。『男がすたる』か、あいつそう言ったのか。あの弱虫流星が」
ハンドルを握る司の顔には、抑えきれない高揚の笑みが浮かんでいます。
この表情を流星が見られたらなー
金を取り返すべくクラブに乗り込んだ流星ですが、男たちに拘束され吊るされ、手ひどい暴行を受けていました。
「はじめて見たときから、食べてみたいと思ってたのよ」
部下を下がらせた柿崎は流星のシャツを破き、愛おしそうに素肌に頬ずりします。
流星が抵抗すると、束ねたロープを鞭のように使い、打ちすえます。
到着した司と苑子が流星が拘束された部屋の前までたどり着き、司の焦った声とドアを叩く音が響きます。
「流星!!」
「司っ…! 来るなぁ……」
「こんな恥ずかしい姿、見られたくないわよねぇ」
書くのがやや憚られますが、柿崎は流星のスラックスのベルトを外しジッパーを下したうえ、急所を火で焙っていました。
只ならぬ気配と悲鳴に司は一刻を争う事態と悟り、柿崎の部下から鍵を奪おうと乱闘を繰り広げます。
途中、苑子が人質に取られるというアクシデントがあったものの、「ヤッパが怖くて銀座で店張ってられるか!」と啖呵を切る苑子は自分に刃物を突き付けた相手を肘打ちして応戦します。
ナイフを取り出した柿崎の冷酷さを肌身では感じた流星は、一つの提案をします。
「俺を自由にしていい。その代わり、外の二人には手を出すな!」
流星が、本当に痺れるほどに格好いい…。
にやりと笑い、流星に近づいていく柿崎。
柿崎がナイフの柄で流星の肌をなぞり始めた隙をついて、流星は腹筋を使い、右左連続で膝蹴りを入れて伸してしまいます。
両腕吊るされた状態で拷問を受け、精神肉体的に消耗したあとですよ。
痺れるけど、一介の元区役所職員のバイタリティではないです。演者が東山紀之または由美かおるの場合しか許されない作劇です。
鍵を奪うことに成功した司が部屋に飛び込んできます。
凌辱された流星の姿に、呆然とする司。
思わず目を逸らす流星。
床に伸びている柿崎を虫けらを見る目で見降ろした司は、思い切り蹴りを入れます。
司のジャケットを借りた流星は苑子に身体を支えてもらい車に乗り込み、追っ手をなんとか振り切ります。
三人は柿崎の手を逃れるため、住所が割れていない司の店に一時避難します。
苑子に傷の手当をしてもらい、やっと現在の司がここジュリアンで指名No.1のホストだと流星は知ります。
「どうして、外交官やめたんだ」
「惚れた女がいたんだ」
「誰なんだ」
「婚約も破棄した。外国では、外交官は夫婦同伴じゃなきゃ仕事にならない」
「告白したのか?」
「とても打ち明けられる相手じゃない」
「人妻か?」
「それなら、暴力ででも奪い取ってるよ」
乾いたように嗤う司。
「相手は、女じゃない男だ」
司は手を伸ばし、流星のグラスに口をつけます。
「流星、お前だ」
思いがけない愛の告白を受けて動けない流星をよそに、髪を直してきた苑子に誘われて司はホールでダンスを踊ります。
三人の夜が更けていきます。