『夜に抱かれて』というドラマはドロドロになりそうな昼ドラ的題材を、朝ドラの上品さでまとめています。
これは重厚な音楽の効果も多分にあるわけですが、主に主人公である中里苑子の性質によるものです。
苑子は、京都の祇園の芸子であった母親に育てられ水商売を生業としてきました。
若い時に、子どもをひとり設けています。
子どもの父親である村上直樹は既婚者であり、一緒にはなれませんでした。
苑子の母親は生まれてすぐの子どもをどこかに預けてしまい、そして消息を苑子に教えることなく他界しました。
バブルがはじけ、銀座で店を構えていた苑子は資金繰りに喘ぎ、マンションを手放します。現在はクラブ『くれない』の雇われママ。
第1話では、かつて店の金を持ち逃げした客が金を持ってきたのに気をよくしてホテルで一夜を過ごしたのに、ふたを開けてみればジュラルミンケースの札束は間に白紙を挟んだダミーで、しかも相手は自分で同衾を求めたくせに下衆な捨て台詞を吐いてくるのです。
「十代の処女なら三千万出すけどね」
苑子も言われっぱなしではなく、ベッドに寝ている男の上にボトルの赤ワインをどぼどぼと注いで立ち去るのですが、自宅に向かうタクシーの中で涙が朝日を反射していました。
その後出張ホストに応募してきた男たちを騙す詐欺に加担するのですが、相手の村上剣が息子と同い年だとわかった動揺し、「財布からいくらでも取っていていいから帰って」と追い出してしまいます。カモにお金を渡したんです。
その後も自分が騙した流星の借金を肩代わりしようと、性格がほとんど武士です。
第5話にて「やせ我慢がこのひとの信条になっているのだろう」という流星のモノローグがありますが、まさにそういうひとなのです。
いつか会いたい、それが夢だと語っていた生き別れた息子が実は村上の家に預けられていると知り、頭を下げて訪ねて行ったら交通事故で死んだと告げられた時も、酒を飲んでひとしきり泣いたら、気丈に立ち直ります。
場所が司の店だったので司と流星が給仕として付き合うのですが、この苑子を中心とした紳士同盟がすごく雰囲気が良くて。三人でいるときは皆楽しそうで幸せそう。
第4話: 罠(トリック)
苑子の抱える借金の中で、どうにもならないのが三千万円。それを無担保で貸すと申してできた土橋建設の社長と苑子が銀行に行った日、部屋で筋トレをしながら流星と司は話題にします。
「司が貸せばいいじゃないか」
「そんなキャッシュねぇよ。派手に見えても案外手元に残らないのがこの仕事なのよ。そりゃ、副業で手堅くやってるやつはいるよ? けど俺は性にあわねぇ。ホストならホストらしく目いっぱい見栄張って生きろってんだ。それに、あの人断るよ。金が友情の値段になるって言って」
「友情ね。男と女の間に友情なんてあるのかな?」
「俺と苑子さんは、いわば戦友だな」
「戦友ね。俺はあの人のことそんな風に思えないな」
「惚れたのか?」
ここでは司の追及を流す流星。
司は流星を恋愛感情込みで愛しているので、無意識に流星の身体のラインを目で追ってしまう自分に気付いて、苦し気に目を逸らします。
銀行では、苑子と土橋の取引は順調に進んでいました。しかし、店員を装った手の甲に傷がある男に三千万を丸ごと持ち逃げされる事案が発生してしまいます。
「どうすんだよ」
司のマンションに戻り己のミスだとひとしきり事情を愚痴る苑子。
「それが…お金ことはいいから、世話にならないかっていうの」
「愛人になれってことですか? やめてください!」
語気を強くする流星。
「土橋…どっかできいたことあるんだよな」
ひっかかって首を傾げる司。
苑子がアパートに戻ることになり、クラブ『くれない』にも戻れる算段がついたと本人は言っています。が、当然司と流星は収まりません。
「土橋……土橋……思い出した!」
二人が勤めるホストクラブ『ジュリアン』の近くのホストバー『キス100万回』の常連に、土橋建設社長の愛人がいたのです。
持ち逃げは土橋の関係者が関わっていると確信した二人は、その夜『キス100万回』に偵察に行きます。
司の家では流星は司の服を借りてるので、終始ぶかぶかの服の中で細い身体が泳いでいる上、燃え袖になってます。白のクルーネックの袖をまくってるのも、手が隠れちゃうからでしょうね。眼福。
閑話休題。
「そういや、仕事には慣れたか?」
カウンターで偵察中、近況について語る二人。
No.1についているから大丈夫、店以外でも貰っているから借金を返し始めたんだと語る流星。
「そういや、そもそもお前はなんでホストに?」
訊くと、司は言いよどみます。
「それはな……」
そのとき、愛人が来店します。
聞き耳をたてる二人。チホという女が三千万が手に入ったと語り持ち逃げに関わったのは確定です。
話題から彼女の趣味が競馬だと知った司は、流星に競馬雑誌購入の使い走りを頼みます。
チホがトイレで席を外している間に即席で競馬の知識を叩き込む二人。
ここで司と流星が一つの雑誌を除き込む接近パートが入ります。
チホが戻ってきたタイミングで、司と流星は競馬の雑談を始めます。
計算通り乗ってくるチホ。
そのま三人でいい具合に盛り上がりますが、暗記物が苦手な司は出ていないオグリキャップのダービーの話をしてしまいます。
「オグリはダービーに出てないわよ」
チホに冷たい目で突っ込まれます。
「夢です、夢。こいつ、好きすぎるあまりオグリがダービーに出る夢を見たんだよ」
流星のフォローにより事なきをえます。この辺、司と流星のコンビは実に息があっており、高校時代もこうだったんだろうなと思わせます。
司がスツールの後ろに隠した競馬雑誌がずり落ちそうになったのも、気付いた流星がフォローしていました。
ところで、チホの好みは一度あっただけでしっかり名前を覚えてくれていた司ではなく、スラっとしなやかな流星です。
「あんた、オグリみたいね」
オグリキャップの子どもの馬主になれるかも…という話を餌に、次は『ジュリアン』に来店するようにといってチホと別れます。
翌日、司のマンション。苑子が出て行ってからすっかり水準の落ちた食事を居候ホストたちとすすりながら、司と流星は徹夜の朝を噛み締めていました。
「一夜漬けをなんて学生時代以来だよ。青は…3枠の色」
「4枠だろ。俺は一夜漬けじゃなかったけど」
「お前すごいな」
司に褒められてもクールにスルーする流星。本当にいいコンビ。
司はチホに見せる用のオグリキャップとの合成写真まで、客に頼んで準備しています。
「散々文句言われたよ。『この私にこんなことさせるなんて』って」
「一発キメれば、大人しくなるんだろう?」
さらっと返す流星に、やや瞠目する司。
「お前も言うようになったな。けど気をつけろよ、客はお前のいいところに惚れてるんだから。水に馴染みすぎると、意気地が汚れるぜ」
夜。計算通りチホはジュリアンに来店。畝子も協力した策に見事にハマり、次は三千万円を持ってくると言質をとります。
が、チホははやる気持ちを抑えきれず、どこかから聞きつけて司のマンションに直接来てしまったのでした。