ドラマ『夜に抱かれて』制作の背景と第1話

夜に抱かれて

作     井沢満
音楽    服部隆之

出演
中里苑子  岩下志麻
麻桐司   高嶋政宏
村上剣   山口達也
川瀬芙美  白川和子
団時朗   柿崎昇
武田恵子  川瀬奈生
武発史郎
マサ    坂本昌行
斎藤勝
鷹弘人
中尾彬
土橋竜五郎 石田太郎
君塚畝子  渡辺えり子
神谷流星  東山紀之

第1話:ホスト志願
第2話:禁色の告白
第3話:子恋い、母恋い

――僕は身体を売ろうと、売春をしようと本気で考えていた――
東山紀之演じる神谷流星のショッキングなモノローグから始まる『夜に抱かれて』は、1994年10月から12月、日本テレビ系列水曜夜22時枠で放映された全10話の連続ドラマです。
当時小学4年生の私はこのドラマの第7話を偶然リアルタイムで観てしまい眠れなくなって翌日保健室にいたわけですが、それはともかく。
当時放映されていた夜21時台22時台の民放ドラマの中でも、『夜に抱かれて』は異色の作品でした。
刑事ドラマでも時代劇でも単発二時間ドラマないのに、こんなにベテラン勢がレギュラーを固めるアダルトなドラマって稀です。
東山紀之は当時28歳ですがあくまで特別出演。
主演は岩下志麻。誰もが知る銀幕の大スター。NHKの大河ドラマかという重厚さです。
じゃあなんでそんなドラマができたの? というあたりを周辺情報から探っていきたいと思います。
当時、岩下志麻と東山紀之の共演映画企画がありました。原作は伊集院静『白秋』(1992年上梓)。東山は1991年の単独初主演映画『本気!』から2005年『MAKOTO』との間に14年ものブランクができていますが、本来そんなに空く予定ではなかったのです。
90年元旦放映TBS大型時代劇『源義経』で初顔合わせを済ませていた岩下と東山の本格競演の前哨戦として、ドラマ『夜に抱かれて』が決まったのだと推測されます。
なお中里苑子を演じる岩下と麻桐司を演じる高嶋政宏との初共演は1991年公開の映画『新極道の妻たち(しんごくどうのおんなたち)』(この映画を見ると流星と司の解像度が上がるかもしれないのでお薦め)、高嶋と東山の役者としての初共演は1993年10月9日放映日本テレビ系列ドラマ『外科医有森冴子さよならSP』(脚本:井沢満)です。

地上波本放送一度きり配信なしVHSオンリーの『夜に抱かれて』ですが、日本での本放送の二年後、1996年8月に台湾の衛視中文台の23時台にて放映されています。
タイトルは『星期五牛郎』。直訳すると「金曜日のホスト」となり台湾でも『金曜日の妻たちへ』がヒットしたことを思わせる見事な便乗タイトルになっています。あんまりだと思われたのか原題のニュアンスが残る『拥抱黑夜』のタイトルでも通じます。日本と同じく視聴困難なようで中華圏最大Q&Aプラットフォームである百度知道でも「見たい」という声がちらほら挙がっていたりします。

『夜に抱かれて』本編に話を戻します。
ショッキングなモノローグの通り、1話から3話の展開を流星視点でまとめると「区役所出張所に勤める地方公務員だった俺が身体を売って、命を狙われ、見習いホストになるまで」になります。
堅実な職業についていながらなんでそんなことにというと、子どもの頃に自分を捨てた母親の男が作った借金返済のため。
26歳の身空にはあまりにも重い境遇です。
借金の取り立てをやっていたはずの村上剣が、同じ母親に棄てられたという境遇にシンパシーを感じて広告で見た出張ホストの募集をいい儲け話だと誘いに来るんです。
ご飯の残りをねだりにくる野良猫の催促にさえ耳をふさいでしまいたくなるような切羽詰まった状況で、流星はこの話に乗ってしまいます。
まあ、当然のごとく詐欺なんですけど。
時を同じくして新宿のクラブの雇われママをしていたものの資金繰りに喘ぎ昔の顔なじみに手酷い扱いを受け、と心労が重なって副業である建設現場の現場で立ち眩みを起こしたところで、出張ホストを騙す犯罪の片棒を担ぐ決意をします。
こうして『夜に抱かれて』の事実上のW主役である流星と苑子が出張ホストとその客としてホテルの一室で出会うことになります。
が、その直前。
出張ホストとしての初仕事の前に下着を新調しようとホテルの売店に寄った流星が、司と苑子のペアと鉢合わせます。
学生時代の大親友であった流星と司ですが、ここ数年会っていませんでした。
だから流星は司を東大卒のエリート外交官として華々しい道を歩んでいる、自分と違う世界の住人だと思ってに扱うし、司もそれを否定しません。
実際の司は新宿のホストクラブ『ジュリアン』で指名No.1を誇るホストです。ホテルにいたのも、客の相手をするためでした。
流星だって「俺、これから売春するんだ」とは言えないので、お互いに隠し事をしたまま、なんとか社交辞令で取り繕ってやり過ごそうとします。
このお互いの微妙でぎこちない距離を測りながらのやり取りがすごくいいんですよね。妙な臨場感があって、いたたまれない。
その後に指定された部屋に流星が出勤すると、客として苑子が出迎えます。
お互いに司の友人知人として紹介された人間が出会うシチュエーションとして、これも気まずさMAXです。夜の街を生き抜いてきた苑子だってうろたえます。動揺がよくわかる演技に注目。
「司とは、もう会わないと思います」
という流星の言葉で踏ん切りをつけて、苑子は流星と予定通り寝ることにします。
なお流星は売春によりヴァージンを喪う覚悟できてます。重い……
「キスして」
苑子の誘惑に応じる形で二人は唇を重ねます。二人とも横顔が美しい……

3話まとめて書く予定だったのですが、1話が思った以上に長くなった。2話に続きます。