真船一雄先生トークイベントレポ

真船一雄氏サイン会&トークイベント受付座席番号が書かれた腕輪秋田県横手市増田まんが美術館で開催された漫画『K2』の作者・真船一雄先生のトークイベントに行ってきました。
観光ということで浮かれ、まっ昼間から日本酒の試飲などして戻ってきたら、すでに会場前は長蛇の列。

電子チケット・美術館からの座席番号メール・身分証・イブニング展チケットをスタッフに提示して腕輪をもらう。
予定より少し遅れての入場です。

向かって左から増田まんが美術館館長・大石卓さん、イブニング最後の編集長土屋俊宏さん、真船先生、そして真船先生担当イブニング編集者・渡部和宏さんの席になっています。
午後2時になり、会場に集まった100人を越えるファンが真船先生を拍手で出迎えてイベントがスタートしました。
大石さんの司会で進行します。

・そもそも、なぜ秋田でイブニング展を?
増田まんが美術館には建館に際し『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄先生との超格好良いエピソードがある。
イブニングでは矢口先生最後の原作となる『バーサス魚神さん』を連載していた。
そういう縁で、土屋さんはもうここに6、7回来ている。今回のイベントは、土屋さんが仕事で渡米する前の最後の訪問。
真船先生は増田まんが美術館の膨大な展示に、「一度にこんな多くの先生がたの原画を見るのが初めてで、圧倒されました」とのこと。美術館の存在をご存知なかったそうです(当たり前)。
廃刊というのは寂しいものだけど、こちらの展示を見るとお祭りみたいに温かく見送ってもらっているようで嬉しい、とのお言葉。

・参加者からメールで募集した真船先生への質問
大石さん「直前になったけれども、300以上の質問が集まりました」
私も一生懸命考えて4つに絞りました。選ばれませんでしたが、先生の目にとまってるといいなぁ。

・真船先生について
真船先生はスーパードクターK単行本のキャラクター図鑑のイラストからイメージがお変わりなかったです。
先生のプロフィールがスクリーンに提示されます。
神奈川県出身、58歳おとめ座。
家族は4人(妻・子2人)で猫を飼っているそう。
好きな食べ物は貝柱・椎茸のいしづき。嫌いな食べ物は全くなし。
デビューから今まででこういったサイン会は実質初めてとの発言に湧く会場。
先生の話しぶりは流暢かつ雄弁で、すごく聞きやすい。

・真船先生の執筆環境
先生は完全アナログ……!
そうですよね、イブニング展で原画を拝見したのでそうかなと思ってました。
今さらデジタル移行はむりだよ、とのことです。連載中のスケジュールなら尚更ですよね。
K2を隔週連載している先生のスケジュールは、1週間ネーム&構想、1週間作画の繰り返し。
構想を練る時は周りに人がいるとだめだという先生。
先生「作画のとき、歌詞のある音楽は厳禁。引きずられてしまう。映画のサウンドトラックを流している。音楽にも波があり、クライマックスが描いてる漫画の流れが一致したときは、ひとりで盛り上がっている」
ストーリーを先生が考え、それに合った病気を編集である渡部さんが探し出し、ああでもないこうでもないと試行錯誤していくうちにストーリーが出来上がっていく。
先生「集めた膨大な資料を全部使うと論文になっちゃう。取捨選択して、どこを使いどこを切り捨て漫画に落とし込むのか」
渡部さん「医学的に誤りがないというのがK2。真船先生も蓄積があって医学知識が豊富だが、医学監修の原田さんには手術の際の患者の体位、メス、カンシの位置、薬剤の量などを訊く。これらは医者でないとわからない」
真船先生「医学については、今はとても調べやすくなっている。スーパードクターKの頃の医療監修である中原とほる先生は名作『ドクトル・ノンベ
』を描いていらっしゃる漫画家でもあって、漫画におけるついていい嘘、リアリティラインの線引きがとても丁寧な人。(中原先生)『この術式とこの術式を組み合わせる。現実にはできないけれど、もしすごく手の速い執刀医がいたらできる』。これはスーパーなドクターなのでできます、と」

・好きなキャラクターについて
先生のお気に入りは高品(龍一)と富永。
ここで会場のFanに、二人のうちどちらが好きかを挙手で訊く。人気は拮抗。
先生「主人公は神なので迷わない、間違えない。だからその周りを読者視点で衛星みたいにぐるぐるまわるキャラクターを置く。これを無能に描くと嫌な話になりやすいのでしない。僕の表現では、年下のしっぽぶんぶん振っているような描きかたになる。高品(龍一)先生はお年を召しているので、今後は息子の龍太郎くんをもっと愛らしく描けるよう頑張ります」

・好きなストーリーについて
先生「思い出深いストーリーは、キャラクターの退場シーン。K2では二人退場させたが、うまく描けたと思っている」
この二人、富永研太と、あと和久井譲介だと思ったのですが、ドクターTETSUの再登場が予定されているということはもうひとりは譲介じゃなく黒須麻純ですね。ということは富永は「退場」していないので(村の診療所を卒業したあとも何度も登場している)、相馬教授のことを指してるんじゃないかな。

・N県のモデルは?
舞台であるK先生の診療所があるN県T村。別名・医療因習村
先生「実際の県名を挙げると差し障りがあるので……日本の真ん中にあるところです」

・漫画家&編集者に互いの印象を聞いてみる
真船先生「渡部さんは訊いたらなんでも答えてくれるし必要な資料は集めてくれる。悪魔のような編集もいるが、渡辺さんは天使」。
真船先生の担当・渡部さん「こんな楽な仕事があっていいのか。真船先生は天使のような漫画家。原稿は落としたことがないどころか、遅れたことがない」
土屋さん「雑誌に20頁の穴が空くとなる一大事で、僕たちは方々に頭を下げてたなんとか原稿をかき集めなければならない。だから僕たちにとって先生は天使で神様のような存在。頼むと(雑誌の)表紙も描いていてくれる。2020年、コロナ禍で、イブニングの表紙(イブニング2020年12号)をK2が飾り『すべての医療従事者へ。君たちがスーパードクターだッッ!!!』とメッセージをつけたら、大反響があった」
どうやらイブニング編集部では、スーパードクターK、ドクターK、そしてK2は3作まとめてシリーズ「K」で通っている様子。真船先生は毎回作品名を呼び分けて説明していらしてました。

アシスタントは、過去に4人だったこともあるが、連載をK2一本に絞った現在は3人。付き合いの長いベテランで、阿吽の呼吸。作業中、会話はない。
そんな真船先生の作画時の1日のタイムスケジュールが映し出されると、会場がざわめきます。
執筆20時間、睡眠4時間。
先「作業中にうたた寝はしてますよ」
土屋「これがあるから、(雑誌の表紙を描いてくれとは)言いにくい」
先生「『おはよう!時代劇(午前4時台・テレビ朝日関東ローカルの再放送枠)』を見てから寝る。11時にはスタッフが来るから準備するために起きる」
全員からの「寝てください」コール。先生、本当に寝てください。
渡部さん「こんなスケジュールなので医療の現場に取材に行っている暇はないです」
しかも、デスクの下においてあるエアヴェーブ(マットレス)の折りたたみを広げて寝る…と。
先生「すぐ眠れて効率がいい」
作画をしてると「ここを少し直そう」が沢山出てきて、集中してしまうそうで。先生は真面目、というのが共通認識でした。
ちゃんと寝てください。

・スーパードクターK、ドクターKの掲載誌は少年誌。K2から青年誌であるイブニングに移行したのは?
真船先生「イブニングを立ち上げた初代編集長が、僕をビシバシと鞭で鍛えた悪魔の編集。悪魔だけど、不思議とあの若い頃の鞭が血肉になっているのを実感する。
2004年、僕はドクターKのあと少年誌で2本連載を失敗している。その時に声をかけてくれた。青年誌でなら、今までできなかった表現もできるんじゃないかと。
ドクターKの最終回は最初期に決まっていて――公園で悪ガキどもがわーっと走っていて、ひとりが転んで怪我をする。そこに屈んでバンドエイド…っ言っちゃ駄目ですね。絆創膏をぺたっと貼ってあげる――という構想は連載当初からあった。編集部に話したら『すごくいい。すごくいいですが、最後に残しておきましょう。』と。そこにたどり着くまでに10年かかった。医療ものだと何年後という設定は出しにくい。治療方法がかわるので。けれどこれは、普遍的だから。K2については、最後は考えていない
一也というキャラクターを通じて、先代Kの若い頃をもう一度丁寧に描き直しているようでとても幸せ。丁寧に描いていきたい」
これを聞いてまだまだ連載を追えると嬉しかったのですが、そのためにも先生はちゃんと寝てください。

・作中の秋田描写について
「うれしいですけど、なんでわざわざ秋田に来てくれたんですか……?」という秋田県人として真っ先に浮かぶだろう質問があって、会場の笑いを誘っていました。同じ秋田県人としてよくわかるよ…すっごく広くて何もないもんね、秋田県。今回大分県からいらっしゃった方も会場にいらしたそうですが、さぞ遠くて大変だったと思います。
答えは、先生の細君である伊藤実先生が秋田県出身だから。伊藤先生はスーパードクターKと同じ週刊少年マガジンに『おがみ松吾郎』を連載されていた漫画家です。

『どぶてけし』(伊藤 実)|講談社コミックプラス 
全編秋田弁で通している野球漫画。

K2の主人公のひとりである一也の友達である緒形くんは秋田出身という設定で、同県出身者が読んでも違和感のない描写がすっごく気になってたんですよね。だまこ餅はご贈答用だとか。
この辺の描写の添削は伊藤先生の担当だそうで。
伊藤先生は現在漫画のお仕事はされておらず、真船先生のアシスタントもやっていないそうです。
真船先生の生活習慣には思うところもおありのようで……「でも真剣に打ち込んで描いているので(とめられない)」

・K2作中で扱った膨大な数の症例
渡部「K2で扱った症例の全データを作ったことがある。今後被らないようにって。けど、こーんな厚みになっちゃって(指で紙の厚みジェスチャー)。もう被らないようにってのは無理です」
確か今年3月にコミックDAYSで全話無料配信が始まったときも、ファンが分担してK2症例全データをテーブルでまとめていた記憶が…… 公式サイドも作ってたんですね。
先生「同じ病気でも医学は日々進歩していて、時間が経てば術式が変わる。当然描きかたも変わるので、被りはあまり気にしなくていいかなと」

・頸椎症のエピソード
真船先生「首が痛くて痛くて、多分頸椎症だなと思って病院に行ったら、担当の先生が素っ気ない」
医者「もし本当に頸椎症なら、首にぐるっとカラーを巻いて固定しなきゃいけない。この暑い夏に本当にやるんですか?」
真船先生「(むっとしつつ)それをすれば直るっていうなら、やりますよ」
真船先生がレントゲン室で写真を撮って帰ってくると、うってかわって医者がしょんぼりしている。
医者「あの……真船一雄先生ですよね、漫画家の。スーパードクターK、子どもの頃から読んでます。……首については、様子を見ましょう」
応対がガラリと変わった。
先生は「診断に手心を加えられたわけではない」と医者をフォローされてました。

・急性膵炎のエピソード
先生の衝撃の睡眠時間に関連して、数年前に身体を壊されたというお話。
先生「急性膵炎と言って、膵臓から出る膵液という消化液が内臓を溶かしてしまう。根本的な治療方法はなくて、入院して絶食してして膵液が出ないようにするしかない。急性膵炎はお酒を飲むひとがなりやすいが、僕は週に一二度しかお酒を飲まない。そう言うと、先生(医者)は、『なるほど、分かりました。それでは甘いものがお好きですね?』って」
当時先生はシールが欲しくてポケモンパンを買って、ずっと食べていた。それが原因だったと。
というわけで、前述の先生が好きな食べ物にはポケモンパンも入ります。
……進行上、若干の笑い話として紹介されたエピソードだし、ポケモンのシールを集めてる先生は確かにキュートかつチャーミングですが、本当に笑い話じゃすまないですよぉ……からだだいじに……!

・紙のコミックスについて
「無料配信でハマりコミックを集めたいが、どこにも既刊の在庫がない。紙で欲しいので重版して欲しい。そのために私たちに何ができますか?」という質問
土屋さん、渡部さんから生々しい内部事情が語られます。大方予想通りでした。
コミックDAYSで配信している間、新刊コミックは出すので安心してくださいとのこと。K245巻は7月発売だそうです。

・ネットでのバズりについて
K2がネット上でバズっていることについて、編集部は把握しているとのこと。
土屋さん「3月に全話無料配信を始めると、コミックDAYSで連日首位を独走」

2023年3月8日午前4時 コミックDAYSランキングのスクリーンショット

2023年3月8日午前4時 コミックDAYSランキングのスクリーンショット 1位 K2 2位 1日外出録ハンチョウ 3位 宝石の国


土屋さん「(週刊少年)マガジン、イブニング、コミックDAYSと連載媒体が変わってきた、真船先生はいわばタイトルホルダー」

キャラクターに突っ込んだ質問は次の機会にという司会である館長の言葉を信じて待っています。