夜に抱かれて 第3話

第3話 子恋い、母恋い

トニー・ベネットの歌声に合わせてペアダンスを踊る司と苑子。
「流星さんも踊りましょうよ。ああでも、リードは司のほうが得意だわ」
男同士で踊るなんて勘弁、と笑ってかわそうとする司に対し、流星は眼鏡を外して司に歩み寄ります。
「いいよ、踊ろう」
真剣な面持ちで向かい合い、指を絡め踊りだす司と流星。
息がぴったりです。
席に着いた苑子は微笑ましい親友同士の交流だと思って和んでいますが、渦中の二人は密な攻防を繰り広げていました。
「さっきの取り消せよ。冗談なんだろ?」
ショックを受けていたのに、次のアクションで相手に告白の取り消しを迫る。この切り替えの速さが流星の流星たる所以ですが、29年経っても斬新すぎて驚きます。
司は取り合いません。
「覚えているか? 谷川岳での雪山登山のこと」
学生時代冬に二人で登山した際、遭難してしまい、力尽きた流星は意識を失います。
流星を救うため、司は雪を口に含んで溶かした水を流星に口移しで飲ませます。
テントの中、司の腕の中で目覚める流星。
「俺、ファーストキスだったんだぜ」
気持ち悪いと笑う流星に、司はぽつりと零します。
「俺は、気持ち悪くなかったな」
「…ごめん。お前の腕、あったけぇな……」
ふたりは指を絡め合い、熱く視線を交わします。
唇がふれあいそうになる寸前、流星は居心地悪そうに顔を反らします。
このやり取りがすごく示唆的で。
熱っぽい司の告白が続きます。
「あのとき俺の腕のなかにいたのは、男でも女でもないひとつの切実な命だった。女の尻を追いかけてた自分に一体何が起こったのかと思ったよ。あのとき俺は、一生分の恋をしてしまったんだ。あのとき、お前の中にも何かが芽生えたはずだ」
思いの丈を打ち明けて、司は流星を背中から抱きしめようとします。
「違う!」
動揺しながらも、司の腕も想いも拒絶する流星。

苑子と流星は司のマンションに身を寄せることにします。
他のホストたちが雑魚寝している部屋の奥にある司のベッドルーム。
一組の布団を苑子に譲り、流星は中央の大きなベッドに司とふたりで寝ることになります。
司は習慣で全部脱いで寝る上、洗濯が面倒臭いという理由でパンツをゴミ箱にシュートイン。
さすがに隣で身を固くする流星。
「何もしないよ」
耳元でそう囁いた矢先、司は流星にキスします。
驚いて目を丸くする流星をよそに、司は布団を被って寝たふり。
「何してるの?」
「こいつをからかって遊んでるんですよ」
寝る体制に入った苑子の質問に、司が答えます。
「もう、寝なさい!」
司の行動が完全なる悪ガキになってます。
流星の背を押して自宅に帰ってきた時から、心底受かれて嬉しそうでしたね……
流星と偶然再会したあと、誰もいない店でひとり物憂げに沈んでいたあの大人の男はどこにいったんだと思うものの、好きな子と一緒に寝るんだもんね。わかるよ……
翌日、流星は司のTシャツを借りて自宅アパートを見に行きますが、部屋の前に柿崎の手のものが見張っていて中に入ることができません。
かわりに、あるものを抱いて司のマンションに戻ります。
司は出勤前の準備をしていました。居候のホストたちに的確に指示を出し、効率的に進めていく様子に、流星は圧倒されます。
司、第2話で流星のことで思い悩みNo.2である賢三に「あいつももう落ち目だな」と言われていたのと本当に同一人物なのかというくらい、バリバリのデキる男になってます。
そりゃそうです。自分が貸したぶかぶかのシャツを細身の身体にもて余した流星が側にいるんだもん。
いいところ見せたくて張り切るの、わかるよ…
司が提案した、追及の手がやむまでの居候を、流星は受け入れます。
「居候の身で、こんなこと頼むのもあれなんだけど……」
流星は猫を飼っていいかと訊きます。アパートの前で再会したのです。
快く承諾する司。
「それと、笑わないで欲しいんだけど……」
流星は少しためらいながらも、はっきりと言います。
「ホストになりたいんだ」
こうして、神谷流星の第二の人生が始まりました。
司から借りた衣装に身を包み、清掃からのスタートです。
司を目の上のたんこぶ扱いしている賢三は、舎弟を使い流星に陰湿な虐めを仕掛けます。
新入りホストに便座を素手で洗わせるの、飲食店の店員として自分だって危なくなるのに、コイツ色んな意味で最悪……と視聴者に思わせる見事なヒールっぷり。
流星も目に怒りが灯りますが、もめ事は起こさず粛々と従います。
清掃が終わりヘルプに入る際、労うマサに流星が愚痴ります。
「あんなやつのどこがいいんだ。司と比べたら月とスッポンじゃないか。あんなのがいたら、店の品が落ちると思うけどね」
流星のNo.2への辛辣極まりない評。虐めが腹に据えかねたのもあるんでしょうが、流星の価値観がどこまでも司基準なのがよく分かります。
流星って、外交官だろうとホストだろうと司が絶対で最高の男なことに疑念の欠片も入る余地がないんです。そりゃ司もこんなひとが隣にいたら張り切るよ。
トイレでのホストとしての先輩から後輩への指導……に見せかけた司の流星への微笑ましいスキンシップの場面を挟みつつ、物語は進んでいきます。
次は苑子さんのドラマをまとめつつ第4話になります。