月: 2020年12月

少年隊の双璧の話。──ほっぽアドベント2020

クリスマスまで残すところ11日。透子さん映子さんどじょんさんにご紹介いただきました #ぽっぽアドベント カレンダー3つめ12/14の担当、初参加の松倉東です。去年のアドベンドがあまりに楽しかったので飛び込んでみました。よろしくお願いします。
テーマは「変わった/変わらなかったこと」。今年結成38年になるジャニーズ事務所現役所属最年長アイドルグループ、少年隊の双璧について。

2020年12月をもって錦織一清、植草克秀の二人がジャニーズ事務所を退所する。
9月20日の少年隊ファンクラブメール伝言板から跳んだページにそう書いてあった。
心配してくれたはとちゃんから「大丈夫ですか」ってDMが来た時、「三人にはもっと大きなものを貰ってるから大丈夫」と恰好をつけてリプしたものの、実は全然大丈夫じゃなかった。
その日は映画『窮鼠はチーズの夢をみる』を観に行く予定で電車の時間まで調べていましたが、結局行きませんでした。ちょうど夏から秋に変わる頃で、夕どき冷たくなった外気が自律神経が失調気味な身にはあまり良くないので、ということにしていたが、本当は退所ニュースによって、2017年11月15号『an・an』で東山紀之が「血の繋がりのない家族。もはや運命共同体ですね」と答えたグループである少年隊が、来年以降ジャニーズの看板を背負って表舞台に立つことはなくなるんだという事実が衝撃で。一緒に現場に行く友人がいれば通話もしたろうが、あいにく該当者の都合が悪かったので、ひとり唸ってました。

どうしてそんな強がりを言ったのかというと、私が東山紀之のFanだからとしかいいようがない。粋で鯔背なジャニーズのMr.Cool。見栄を張ってカッコつけるのが習い性なのだ。

2008年以降三人そろったグループ活動が一切ないまま2020年も半ばを過ぎていたので、ついに来る時がきたかと思わなくもなかったんですが、それでもショックはショック。さらに別の大事が重なったFanはもっと衝撃だったろうなと思います。

というわけで、四半世紀来の東山担当から見た少年隊の話。

錦織一清。愛称ニッキ(メンバーはニシキと呼ぶ)。本来俗世にいる必要がないのに、何故か気に入り居着いている天下の佳人。下町育ちの庶民派を気取っている変わり者。
植草克秀。愛称カッちゃん。テディベアのように愛らしいルックスの理想的アイドル。東山がボールのように丸いというその人柄は、女性から貰った手編みのセーターを大切にしていたのが気に入らなかった東山に該当の品を捨てられたのに怒るだけで済ませるという寛大なエピソードに象徴される。私なら一発殴る。
東山紀之。カッコ悪いことが大嫌いで、トンキーという愛称を番組プロデューサーに提案され「絶対にイヤです」と抵抗するところからアイドル人生がスタート。
少年隊メンバーについて

少年隊は1983年明治チョコレート「Dela」のCMキャラクターになったときに情熱のレッド=錦織(ただし30代以降脱力系中年にジョブチェンジ)、ムードメーカーのイエロー=植草、そしてブラック=東山のイメージカラーが決定し37年後の今もそのままなわけですが……
ブラックとは黒。色、ないです。黒子くろこという言葉でわかるように、本来表に出る色ではありません。
少年隊は大人で正統派なアイドルグループで今はK-POPに代表される東アジア発ボーイバンドの完成形ですが、東山紀之という偶像はアンチノミーなんです。

東山紀之、愛称ヒガシは細い顎と通った鼻筋と、切れ長一重の眼差しが印象的な美形。佇まいは古風でスタイルは現代的。小顔で四肢はすらりと長く178cmと長身なので、ファッション誌の仕事が途切れることがありません。
地上波テレビではここ25年ほどジャニーズ事務所の顔役なので、立派な成人然として振る舞っています、が。
実は無邪気な子どもです。
少年隊メンバー中一番の年下なので、悪ガキなんですよね。愛されて許されるのを知ってるので、始末に負えない。
ヒガシは毎日1時間風呂に入る大のキレイ好きです。だからといって、「先にシャワーを浴びたい」といっても植草さんが朝のシャワーの順番を譲ってくれないのに本気で腹を立てて、シャワー室のドアの四方をガムテープでびっちり塞いで相当頑張らないと開けられないようにしてたエピソードとかみると、末っ子として普段どんだけ甘やかされてたんだよと思いますね。
この、大人びて見える子どもというのが東山紀之のアイドル性です。

少年隊は曲によってフォーメーションが変わるグループです。初期の基本形は芸能活動のキャリアが近藤真彦より長いリーダー錦織一清がセンター。レコードデビュー後になると、生放送定番のマイク集音事故の心配をする必要のない莫大な声量と歌唱力を持つ植草克秀がセンターで安定するようになります。両脇のシンメは錦織と東山。

アイドルヒガシは、人と争うことをしません。特に錦織一清とは絶対に争わないのです(逆に、唯一の例外が植草さんです。彼とは争います。争って争って延々言い返すので、普段の30倍くらい口数が増えます)。
ヒガシにとってニシキとは伝説のひとなので、一緒に活動するようになって以降、雛みたいにあとをついて回った形跡がそこかしこに残ってます。
なお錦織さんは東山の一歳年上ですが、東山は友人にはこういう行動はとりません。シブがき隊のヤックンこと薬丸裕英は錦織さんと同い年で東山の気の合う親友ですが、薬丸の婚前旅行が発覚し謹慎処分を食らってたときに東山は焼肉弁当をもって励ましに行ってます。25年後には、当時は忙しくて挙げられなかった結婚式もプレゼントしてます。中学時代バスケットボール部のキャプテンを務めてたように、本来は即決速攻でガンガン行ってまわりが自然についていくタイプです。
錦織さんは早熟で精神年齢が高く個を大切にするひとなので、少年隊というグループでやっていくにあたり、そんなヒガシにひとつのプレゼントをします。
ヒガシは、「伝説のひと」であるニシキと個性のまるで違う対等なライバルだ、という尊重です。

少年隊はレコードレビュー翌年の1986年から23年間ほど東京青山劇場でプレゾンというオリジナルミュージカルを続けていて、そこで錦織と東山は対照的で好敵手な役どころを何度も当てられています。
89年作『Again』では裕福な家庭に生まれたリュウ(錦織)と、不良たちをまとめあげる苦労人ジョー(東山)。そんな二人の前にGODの手違いで天国に召し上げられた上、同じく都合により女の子に転生したケン(植草)が送られるわけです。
設定だけ聞くと、ならこの後はリュウとジョーがケンを巡って火花を散らすんだな、と思うじゃないですか。
実際それっぽい場面も用意されてはいますが、ほんと言い訳程度。ケンを巡ってチーム・リュウとチーム・ジョーがバッチバチの群舞バトルを繰り広げる場面、実際はジャニーズトップダンサー錦織一清の巧みで安定感のあるリードによって、末っ子ヒガシがのびのびとくるくる舞っています。息がぴったりきれいにシンクロしすぎて、熱と熱のぶつかり合いにつきものであるはずの摩擦や抵抗といった要素が欠片もありません。
じゃあケンは、水と油であるリュウとジョーの仲を取り持ったりするのかな、と思うじゃないですか。
実際は、仲間を庇いひとりで泥を被ろうとしたジョーの手を、リュウが紳士的に引いて逃避行します。
凪いだように穏やか。平和そのもので起伏がありません。前年『カプリッチョ』では天使(東山)と悪魔(錦織)の間に探偵の卵(植草)をおいて山あり谷ありの展開がうまく転がったのに。

『Again』にはジョーがリュウに「お前みたいにぬくぬくと育ってきた奴にはわからない、大事なことを知っているぜ」と啖呵を切る場面があります。プレゾンを振り返るときは必ずここを切り取られるというくらい印象的ですが、本編で明かされなかったそのこと、とは
「大好きな家族と精一杯遊べる今は、とても幸せ」
なんじゃないのかな。
アイドルヒガシにとって、ダンスや歌や芝居ってやりがいのある遊びなんです。

プレゾン初年度『Mystery』から踊るときはヒガシが旦那役であっても妻役のニシキにほのぼのリードされ続けていたわけですが、『Again』から10年経った1999年『Goodbye&Hello』とその翌年『THEMEPARK』でやっと関係性に変化が見られます。とくに『THEMEPARK』でぺアでタンゴを踊ったとき、錦織と東山、どっちがリードしているのかいくら見てもわからないくらいにはピンと張りつめた緊張感がありパワーバランスが拮抗してるんですね。
ジャニーズトップダンサーで教科書であるニシキと自分が肩を並べる双璧である自覚が、末っ子ヒガシにやっと芽生え始めた……んだと思うんですが、東山さんて自覚が薄いほんっとうの天然なので、Fanとしても全然確信が持てない。2008年音楽劇『さらば、わが愛 覇王別姫』のときも、単独座長公演なのにさっさと何でもやってしまう末っ子しぐさで演じてしまい「ヒガシ、お前は情緒がないんだよ」と故・蜷川幸雄に注意されてたので。みんな、あなたが見たくてあなただから期待して待ってるんですよ。

ともかく。口数は少なく物静かなのにしっかりと個がありはっきりものを言う東山紀之というアイドルに黒――じっとしていると周りに溶け込んでいるのに動き出すとはっきり見え、どんな色にも染まらないカラーは、まさにイメージぴったりだなとしみじみ思います。
2020年を境に35年間ずっと一緒だった少年隊の形が変わりますが、よく見てみてると実は変わってないのでした。

ぽっぽアドベンド、次はオザキさん、みのもさん、ばっこ baccoさんです。

そしてアドベントを企画し運営してくれているはとちゃんに感謝を述べて締めといたします。